【特集】探究学習と大学入試
❸探究力こそが大学での学びに求められる
奈良女子大学

 2021年度入試よりAO入試は総合型選抜へ変更となり,2022年度からは高校の学習指導要領が改訂されて「総合的な学習の時間」に代わり「総合的な探究の時間」が必履修科目となった。そうした思考力・判断力に加えて主体性・協働性などを重視する教育改革の波が広がるなか,各大学でも入試制度の見直しを行っている。
 今回お話をうかがうのは,2021年度より<総合型選抜 探究力入試「Q」>(以下,<探究力入試「Q」>と記載)を実施している奈良女子大学。アドミッションセンター長の小川氏,同センター員の小野寺氏,入試課の一柳氏にご登場いただき,奈良女子大学が求める探究力について,また高校から大学へ,探究学習をどう繋げているのか語っていただいた。

探究する力のポテンシャルを測る「探究力入試【Q】」

――どういった経緯で<探究力入試「Q」>を導入したのでしょうか。

 

小川氏:国立大学はどこも6年を一つのサイクルとして中期目標・中期計画を設定しているのですが,2021年度までの第3期中期計画の中で,本学では「学力判定に偏ってきた従来の入学者選抜を,学問研究に必要な感性,主体性,学力等を総合的に判定できるものに改めるために,入学者選抜方法の根本的な見直しを行う」という目標を立てました。本学が<探究力入試「Q」>(※)を導入した背景には,まずこの目標があります。この第3期には入試課と連携する組織としてアドミッションセンターが設置されましたので,全学的に相談しながら<探究力入試「Q」>の制度設計を進めていったというわけです。
 ※<探究力入試「Q」>・・・http://koto.nara-wu.ac.jp/nyusi/qnyusi/index.html

 また,本学のアドミッションポリシーでは,「現代における諸問題の解決を通して社会に貢献する」,「学生もまた探究者」ということを謳っています。大学というのは探究をする場所であり,そのためにこそ入学して欲しい,というメッセージなのですが,<探究力入試「Q」>はまさにこの考え方を軸にした入試制度です。

 

奈良女子大学<探究力入試「Q」>ホームページ(http://koto.nara-wu.ac.jp/nyusi/qnyusi/bungaku/index.html)より

小川氏:そしてもう1つ大事なことは,探究入試ではなく,探究「力」入試としていることです。つまり,探究の結果そのものではなく,探究する力を見せてもらうことが狙いなのです。主体的に考えて答えを出すには文系理系問わず,自ら問いを発見し,それを解明する方法を探り当て,論理的に思考を進め,その結果を説得的に表現する力が問われます。そういう意味での探究力をできるだけ発揮してもらえるような形式にしています。

奈良女子大学<探究力入試「Q」>ホームページ(http://koto.nara-wu.ac.jp/nyusi/qnyusi/message/index.html)より

<探究力入試「Q」>で重要視している「主体性」は,本学の中期計画の大事なキーワードでもありますし,大学に限らず初等教育,中等教育でも重視されていると思います。いわゆる「学力の3要素(※)」にあるように,日本の21世紀の教育の柱の1つが主体性だと言っても過言ではないでしょう。
 ※「学力の3要素」…①知識・技能 ②思考力・判断力・表現力等 ③主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性・多様性・協働性)。[2007年改定の学校教育法第30条2や2014年の「高大接続改革答申」参照]
 また出願書類では「志望理由書」や「研究計画書」等を課しています。自分で計画を立て,時間をかけて考えて進めないと成果が出ないような課題を出し,主体的に研究を進めてもらう,そういう入試を目指しています。

工学部・探究力入試「Q」の提出書類の例

奈良女子大学工学部ホームページ(https://nwu-eng.jp/admission-3-q/#part2)より

 

探究したい気持ちを継続して追求できる環境

――高校から<探究力入試「Q」>を経て大学へと,探究学習の道筋を作る上で,入学前教育は何か取り組まれていますか?


小野寺氏:合格者に対して大学側が一律にスケジュールや進捗状況を把握して,入学前の学習を細かく指示や監督するような形にはなっていません。もちろん,学部によっては,課題図書などを提示し,それに関する問いを投げかけるといったことは行われています。
 入学した学生から話を聞いてみると,入学前教育で教員が投げかけたそのような問いに対して,近所の図書館に行って自分なりに調べて考えてみた,といった取組みをしたそうです。そういう話を耳にすると,主体性のある学生が合格してくれているなあという手応えを感じます。
 また,教員側が提示する本は,けっこう高度なものもあるのですが,「凄く楽しく読みました」と話してくれる学生もいます。本人たちの主体性や自発性に任せる部分は多いのですが,結果的にとても豊かな入学前教育になっているのではないかと個人的には感じています。
一柳氏:主体性重視ということを念頭に,各学部工夫して取り組んでいます。一部では推薦図書についてのレポートを課す際,教員の連絡先を載せて質問を受け付けたり,Zoomで面談をしたりといった,自発的な学びをサポートするような形式で実施しています。

――大学入学後の探究的な学習については,どのように取り組んでいるのでしょうか?


小川氏:卒業論文や卒業研究も含め,大学での学び全体が探究なので,高校のように特段に探究の時間を設けているわけではありません。ただ本学では,入学前に持っている探究したいという気持ちを継続してもらうための1つのきっかけ,入口として,<探究力入試「Q」>の導入前から,全学部生を対象に「パサージュ」(※)という教養科目を開設しています。「パサージュ」は大学入学後すぐに,各教員の研究や学問そのものに触れることを目的とした科目です。様々なテーマを自由に選択できるので,高校時代の探究マインドを活かして自分の興味にあったもの,もしくは今まで自分が出合ったことのない学問と出合って本当の探究へと一層近付く,そういったカリキュラムを用意しています。
 ※「パサージュ」・・・https://www.nara-wu.ac.jp/nwu/education/passage/passage2021.html

奈良女子大学Campus Guide(https://www.d-pam.com/nara-wu/2210703/index.html?tm=1)より

 

小野寺氏:受講する学生も学部問わず混合で,少人数のセミナー形式にし,学生同士の意見交換の場を積極的に設けるようにしています。そうすることで,同じパサージュの科目を受講するなかでも,それぞれの学生の抱く感想やものの見方が違うことを実感し,面白さを感じているようです。

仲間の意見に触れながら,探究力を伸ばしていく

――<探究力入試「Q」>で入学した学生がいることによる変化,気付きはありますか?


小川氏:まだ2期生までしか入っていないので,大学全体がどう変わったかというところまでは把握しきれない状況です。でも,入学してもらったあとはそのまま,というわけではなく,アドミッションセンターでは,無理のない形で<探究力入試「Q」>で入学した学生とはコミュニケーションを取るようにしています。
小野寺氏:繋がり作りということでは,毎年<探究力入試「Q」>で入学した学生を対象に懇親会を設けています。そこで高校の探究学習がどう<探究力入試「Q」>に繋がったのかを1人ずつ話してもらうのですが,それだけで非常に盛り上がります。そんな姿を見ていても,ものすごく探究学習に楽しさを感じていて,入学後も継続している感触がよく伝わってくるというのが,個人的な感想です。探究に楽しみを感じ続けている学生が,今後仲間同士で刺激し合いながら,本学の探究的な雰囲気や文化を盛り上げてくれたら嬉しいな,と今は期待しているところです。

──────────────────────────────────────────────────

   「探究力入試【Q】」合格者の声
   ・この入試を通じて自分のやりたいことが整理された
   ・”大学に入ったらこんなことができるのか”とより意欲が沸いた
   ・高校時代に学んだことを生かせること,又,大学でもその研究を続けたいと思ったから受験した
   ・高校で行っていた課題研究を人に伝えることができるこれ以上ない最高の場だと感じたからです

──────────────────────────────────────────────────
一柳氏:奈良女子大学に入学して,満足度の高い4年間を過ごしてもらうための1つの入口としてこういった入試があるので,ぜひ入学後の学びのイメージも考えながら,時間をかけて継続的に探究学習に取り組んでもらえれば,と思っています。
小野寺氏:そういう意味では,出願時の研究計画書に書いたテーマにずっと縛られる必要はありません。入学後には,それをいい意味で変えていくチャンスが沢山あります。入学後は柔軟性を持って探究力を伸ばしていく,そういう姿勢を持つことが大事なのだと思います。
小川氏:自身の興味関心との関連性という意味で,本学の学部や学科・コースで手掛けている研究や教育内容とのマッチングというのはたしかに大事です。でも,過度に寄せたり合わせすぎる必要もありません。入学後に,なんらかの専門分野の基礎はしっかり身につけたうえで,独自性のある,いわばやんちゃな展開をしてもらうことも大歓迎です。
<探究力入試「Q」>で入学してくれた人たちが,探究力というもちまえの潜在的な力を大いに発揮してくれることを期待しています。それは,本学がいっそう多様な形で活性化していくことにもつながると考えています。

(2022.06.29取材)

◆アドミッションセンター長 小川氏 *研究院人文科学系教授(文学部教授)

 

 

 

 

 

◆アドミッションセンター員 小野寺氏 *研究院人文科学系准教授(文学部准教授)

 

 

 

 

 

 

 

 

一覧に戻る

最新記事

このサイトではCookieを使用しています。Cookieの使用に関する詳細は「 プライバシーポリシープライバシーポリシー」をご覧ください。

OK