【特集】探究学習と大学入試
❹地域に根ざした大学としてできること
兵庫大学・兵庫大学短期大学部入学部事務部長 瀬川明
- 2022.08.10

探究学習の場でよく耳にする「地域連携」。大学についても,地元の高校へ連携を積極的に提案し,地域の活性化への貢献を重視するところは増加傾向にある。今回はこうした地域連携に積極的に取り組んでいる兵庫大学の入学部・瀬川明氏に取材し,豊富な学習支援の内容と,地元とのつながりに関して,今後の展望を語っていただいた。
挑戦は大学から
瀬川氏:入試改革のきっかけとなったのは,文部科学省による高大接続改革の提案です。
高校現場で総合的な評価を取り入れる新しい教育が既にスタートしている中で,まずは大学入試が先に新しいことに挑戦していくことで,高校の教育改革につながればという意識を持っていました。また,本学は地域に根ざす大学として社会貢献も大事にしていますので,地元の高校を中心に支援しながら,その中での学びの経験を入試につなげてもらえればという狙いも背景の一つとしてありました。
取り組みの初めの頃は,高大接続を先取りした新しい形のAO入試として打ち出していました。普段の授業が入試につながるという点をポイントとして打ち出し,目を向けてもらいやすい入試を目指していました。募集対象としていたのは,高校での課題研究や探究学習の経験者,本学が実施する探究学習支援イベントに参加した生徒,文科省と連携した地域イベント「熟議」に参加した生徒たちです。その他,各種団体が実施するビジネスや食などのコンテストも探究の一環として位置づけ,その参加者も集めていました。

新しさを求め続けて生まれた,探究学習を中心とした入試の形
瀬川氏:その後,高校教育の中で浸透してきた探究学習を,そろそろ本学入試の特徴として表に出してアピールしようと考え,それまでのAO入試をリニューアルして打ち出したのが「探究学習活用入試」です。
これは,高校の授業や各種団体が行うコンテストなどで課題研究や探究学習に取り組んだ生徒,そして,本学が実施する「進路探究塾」に参加し,その中で自らの探究を深めた生徒が募集対象となり,その成果を活用してもらう入試です。
選考はプレゼンテーション,自己PRシート,調査書の総合評価により行われます。特にプレゼンテーションについては発表5分間に対して質疑応答を10分間設けており,どこまで探究を深めることができたのか,じっくり確認させてもらう場になっています。

「探究学習活用入試」へとつながる「進路探究塾」についても,今でこそ探究活動を前面に打ち出していますが,初めは高校生と早くからつながるための企画として生まれました。兵庫大学の認知を広め,教育内容をしっかりと理解してもらう目的で始まり,その後入試改革に伴って,入試へとつながる探究活動の場へと変化しています。
「進路探究塾」の参加者には,協働性や思考力,表現力を評価した受講証明書を授与し,兵庫大学や他大学の入試で自己PRする際のエビデンスとしても活用してもらっています。
2018年から2020年までの3年間で約235人が参加して,約8割が本学へ出願してくれました。元々兵庫大学を知っていたから,興味があったから,という生徒が中心です。高校の先生に言われたから来たという層も一定数はいたでしょうが,本学を知ってもらうきっかけ作りにつながっているのはありがたいですね。
生徒たちからは嬉しい声をもらっています。(下記)
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〈進路探究塾参加者アンケート〉
・分野に興味を持てた。
・不安が減った。
・進路に進むための自信がついた。
・大学生からいろいろと教えてもらい,良い体験になった。
・自分で思いつかない意見が聞けた。
・同年代の考え方を知った。負けないように頑張りたい。
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「進路探究塾」での他校の生徒との交流はモチベーションアップにもつながっているようで,グループワークなどは非常に手ごたえを感じていますね。
高大接続から入学後まで,豊富な学習支援
瀬川氏:本学の高大接続教育には,連携度合いにいくつかのパターンがあります。一貫教育として探究学習を全面的にサポートしているのは,附属校の兵庫大学附属須磨ノ浦高等学校。次いで,20校近くある連携協定校や近隣の常連校。加えて新規開拓校も連携の対象としています。

例えば神戸野田高等学校の「Noda探究」という取り組みには,約24のテーマで講師を派遣。生徒たちに多様な領域の専門知識に触れてもらって,学習の深化を助けました。

また,連携の一つとして「アカレク」という,探究につながるアカデミックレクチャー,いわゆる出張講義を実施しています。この講座は150種類ほど用意しており,科学,IT,国際,ビジネスなど,本学が扱う分野の中から好きなものを選んでもらえます。

更に,本学は入学前教育も充実させています。東進ハイスクールなどの教育事業を行っている株式会社ナガセと連携したDVD講座や,教職・学習支援センターの開放,大学の授業を先取りできるオンライン特別講義など,学習のモチベーションを維持するための取り組みは様々です。
入学後は,本学の教育で探究の取り組みを伸ばしていくために,大学全体でPBL学習(Project Based Learning:課題解決型学習)に取り組んでいます。
学生が主体となって行う地域の課題解決を大学として表彰するイベント,「PBLグランプリ」を実施し,本学の質の保証にも繋がるPBL学習を推進しています。
審査員には地域関係者を招くなどして,学内だけで完結せず地域も巻き込んだイベントにしている点がポイントです。
また,現代ビジネス学科では,学科全員が地域に出て,様々な課題解決を行う「SOTO-MANABI(ソトマナビ)」もあります。
やはり探究学習へ積極的に取り組める人に入ってもらうための入試改革ですので,入学後も,こういった取り組みの中で学びを地域の課題につなげたり,学習のモチベーションにつなげたりしてほしいと思っています。
また,これらの体験は,就職にもよい影響が出るはずです。学生は企業から大学時代に一番力を入れたことは何ですか,とよく聞かれますが,そこで「PBL学習」「SOTO-MANABI」などの地域の課題解決に取り組んだこと,そしてそこでの苦労や解決の過程などの話ができると,企業側からの印象はよくなるのかなと思います。
本学としても「SOTO-MANABI」や「PBL学習」に取り組んだ学生たちの教育成果の可視化は行っていきたいと思っています。それを高校現場にフィードバックしていくことで,選ばれる大学を目指していきたいですね。
地域貢献の循環をつくるために
瀬川氏:高校への探究学習や「進路探究塾」などでの学びが「探究学習活用入試」へと繋がり,入学前教育でモチベーションを維持させながら入学して,入学後も面談などこまめなフォローを行い,先生と一緒に伴走して卒業していく…。全ての取り組みはつながっていて,その様々な「つながり」こそ,地域連携を中心とした本学の学びにとって大事なことだと考えています。学生たちは,地域の人とのつながりによって成長させてもらっています。
地域に根ざす大学としては,地元への支援が探究学習に積極的な生徒の獲得につながり,大学でのPBL学習等を経て地域に貢献する人材として社会に送り出す,こういう循環をこれからも積極的に作っていきたいですね。
(2022.6.29取材)
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