"アクチュアル"活用事例2022
〈事例①〉"アクチュアル"には生徒たちの考えを引き出す教材が揃っている
國學院大學栃木中学・高等学校 西沢敏/北川嘉則
- 2022.08.26

國學院大學栃木中学・高等学校は,栃木県栃木市にある1960年開校の私立校。2021年度高校1年生から生徒一人ひとりにiPadを持たせてICTの活用を進め,探究学習についても2021年度から新たなカリキュラムでの取り組みをスタートさせている。今回は,同校の探究学習運営委員会で委員長を務める西沢敏教諭と副委員長の北川嘉則教諭に,探究学習の取り組みと"アクチュアル"導入に関して話を伺った。
探究学習のカリキュラム
同校では2021年度から次のような流れで探究学習に取り組んでいる。
・高校1年生…探究学習の基本的な手法を身につける
・同2年生…身につけた手法を応用して自分で課題を設定し,探究活動を実践する
・同3年生…2年次の経験に基づいて進路や将来のことを考える
生徒が個々に課題を設定して取り組む高校2年生の探究学習では,「総合的な探究の時間」をゼミ形式で実施。クラスはシャッフルして各ゼミに生徒は25名程度,そこに担当教員が2名ずつついて,コミュニケーションを密に取りながら個々の興味関心にあったテーマで探究学習を行っている。探究学習のカリキュラムをこのように定めた背景について,北川教諭はこう説明する。
北川教諭───
これまでの本校の探究学習は発表会を中心に生徒の表現力を磨いてきましたが,生徒個々の興味関心に即した課題の追究やそのための指導に力を入れたいと感じるところがありました。この先の社会で生きていく上では,生徒たち皆が探究的な活動を当たり前のこととして行う必要があります。そこで,学校全体として指導の質も担保しながら全ての生徒が探究的な活動で共通の経験をできるようにしたい,こうした思いから,高校2年生でのゼミを中心にカリキュラムを考えました。
「ミニ探究」で探究的な考え方や手法を身につける
そして今年度,高校1・2年生の探究学習で用いる教材として"アクチュアル"は導入され,1学期は主に1年生の「総合的な探究の時間」で活用されている。
探究学習の手法やコツを身につけられる教材として,"アクチュアル"には2~3コマで一つのテーマに取り組む「ミニ探究」と,5~10コマかけて取り組む「ミドル探究」が収録されている。探究学習を発表会ありきで考えるのではなく,まずは日々の活動を無理なく,かつスムーズに回していきたい――こう考えていた同校にとって,「ミニ探究」「ミドル探究」合わせて30本にも上る教材があり,クラスごとに使いたいものを自由に選んで進められる点は魅力を感じたという。1学期に「ミニ探究」の教材を実際に授業で使った感触を,北川教諭はこう語る。
北川教諭───
内容的にとてもおもしろいテーマが多く,探究的な考え方や手法を生徒たちが自然と身につけていける教材が多いですね。教員も授業で使う教材を楽しみながら選んでいて,これまで採用していた教材と比べると明らかに探究学習が充実してきています。また,1年生の段階で「ミニ探究」「ミドル探究」の教材にいくつも取り組むことで,教員も生徒も教材をやり遂げた達成感を得られるのではないかと期待しています。
西沢教諭は,「ミニ探究」を使った取り組みや生徒たちの様子をこう語ってくれた。
西沢教諭───
ミニ探究2-3「急な階段って!?」を使った授業で階段の傾きが急に見える原因を生徒に考えさせると,次々と生徒から仮説が出てきました。いきなり課題や仮説を設定しようとすると,教員も生徒も身構えてしまいます。この「急な階段って!?」のようにテーマを与えてくれて,そのテーマを考えていくと生徒たちの様々な考えを引き出してくれる教材から始めるのがいいのだろうなと思います。
「ミニ探究」を使った授業の様子
2022年6月,高校1年生の「総合的な探究の時間」を見学。クラスごとに異なる教材を使って探究学習に取り組んでいた。
▲このクラスでは,ミニ探究2-8「脱炭素社会構築のアイデア(ジグソー法)」を用い,
各グループで調べた内容を発表していた。
▲ミニ探究2-3「急な階段って!?」に取り組んでいるクラス。
ワークシートは印刷して活用している。
▲こちらのクラスは,ミニ探究2-2「AとBどちらがいいか?」に取り組んでいる。
「ガメラとゴジラ」というタイトルで教員が発表資料のテンプレートを作成していた。
また,同校の1・2年生ではiPadとGoogle Classroomを中心にICTの活用が進んでおり,オンラインサービスの"アクチュアル"であれば教材配信が手軽にできる点,そしてGoogleアカウントのシングルサインオンでスムーズにログインできる点も評価されている。同校では2学年で800名を超える生徒が"アクチュアル"を利用しているが,ログインまでの設定はとても簡単だったという。
教員の探究学習への関わり
800名超の生徒が探究学習を行うとなれば,携わる教員も100名近くとなる。教員間での意思疎通や情報共有については,各学年から教員2~3名が参加する探究学習運営委員会を週一回開催し調整しているが,やはりこれだけの数に上るとなかなか難しい面もあるという。1年生に関しては学期途中に学年会議を開き,"アクチュアル"を使った取り組みの意識づけを教員全体に行ったことで,前に進めることができたとのこと。2学期も学年会議で指導計画や指導の目安を提示するなかで,特に生徒に取り組んでほしいミニ探究・ミドル探究の紹介,実践の共有をはかっていく予定だという。
同校が抱えるこうした課題は,これまで当たり前だった一斉授業では取り組めない,探究活動の特徴も影響しているようだ。西沢教諭はこの点をこう指摘する。
西沢教諭───
やはり探究は探究,教科の授業は教科の授業と分けて考えているとうまく行きません。どの授業にも探究の要素を取り入れて,授業内で工夫できたらと思っています。これを別物だと考えると負担しかなくなってしまう。京都の堀川高校のように日々の授業へ探究を取り入れていけば学力が上がるというエビデンスはあるわけで,それを教員皆が分かってくれば授業全体が変わると思うのですが,今はまだ産みの苦しみが付きまといます。
今後”アクチュアル”に期待すること
高校2年生での"アクチュアル"活用は,これから具体的に考える予定だそう。"アクチュアル"には既に「調べ学習編」という生徒個々人の探究学習をサポートする教材が収録されている。そして来年度には,さらに深い内容まで踏み込んで探究学習の取り組み方を解説する"課題研究編"もリリースの予定だ。今後"アクチュアル"に期待することを,北川教諭に語ってもらった。
北川教諭───
課題設定は探究学習で一番大事なところでありながら,教員も生徒も一番苦労するところだと思います。特に文系と理系では,課題や仮説の設定に当たって発想や進め方が異なってくるので,このあたりの目線合わせを"アクチュアル"がサポートしてくれるととても助かります。また,ゼミで生徒を指導するとなると,成果を出さないといけないのではないかと身構えてしまう教員もいます。高校生であれば生活に関わる身近なところでこうやって課題を設定すればいいと分かるような,教員が安心できる情報や解説も用意してもらえたら嬉しいですね。
一覧に戻る