【特集】探究学習と大学入試
❽入試から,学生の意識改革を
西南学院大学 経済学部長 小出秀雄 / 入試課 金子靖弘

 現在,学習指導要領改訂においても大学入試制度改革においても「学力の3要素(※)」が強調され,高校では生徒が自ら主体的に学ぶ姿勢が求められている。今回は,学習指導要領改訂前の2019年度から「総合型入試」を導入し,「学力の3要素」に則った学生の選抜に注力してきた西南学院大学にご登場いただく。経済学部長・小出氏,入試課・金子氏に,これからの学びに求められる力や,「総合型入試」の今後の展望についてお話をうかがった。
 ※「学力の3要素」…①知識・技能 ②思考力・判断力・表現力等 ③主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性・多様性・協働性)

 

真摯に学びに向き合う学生を選抜する様々な課題

小出氏:本学の「総合型入試」は2019年度から実施していますので,1期生がちょうど現在4年生になり,1年生~4年生まで全学年在籍しています。
 2019年度という比較的早い段階から「総合型入試」を実施していますが,それ以前は,入試会場で論文を書かせ,その後面接をするという,「論文特別入試」を実施していました。ですが,やはり論文だけでは基礎学力を測れない面があったので,その経験を踏まえつつ,「総合型入試」というまったく新しい入試にしました。前倒しではありますが,「学力の3要素」で学生を見極めようという当時の学部長の意気込みや,学生の学びに対する意識を問う意味でも,やはり総合型入試を導入しないといけないだろうということに決まりました。例えば初年度の2019年度・経済学部の総合型選抜入試のポスターは,面接や講義に基づく試験を実施し,「好奇心・行動力をいかせる入試制度」と謳っています。
 

西南学院大学2019年度・経済学部総合型選抜入試ポスターより

 

経済学部の「総合型入試」の選考方法の1つ,「学びと探究型」では,出願書類に「志望理由書」「学修計画書」を課し,「学力の3要素」に従って表現力や主体性を見ています。

 

西南学院大学ホームページ「2023年度経済学部 総合型入試(学びと探究型)入学試験案内」より

 

小出氏:「志望理由書」では,大学での学びを自ら積極的に選択する姿勢を見ています。そしてこれまで主体的に行動し,成長した経験や,卒業後の進路についても記述してもらいます。

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「志望理由書」概要
◆西南学院大学を第1志望とする理由について,記述
◆これまでに以下の事項に当てはまる経験があれば,その内容を具体的に説明。
 ①自主的に考え実行に移した経験について
 ②困難に直面した際に乗り越えた経験について
 ③他の人との協力によって達成した経験について
◆卒業後の進路について,記述
※西南学院大学ホームページ「2023年度経済学部 総合型入試(学びと探究型)志望理由書」より

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 次に「学修計画書」では,入学後に取り組みたい探究テーマと,それを実行する計画について記述してもらいます。「学びと探究型」の場合,やはりこの探究テーマが重要になります。テーマの説明では大学で何を探究したいのかを具体的に書いてもらい,テーマを設定するに至った理由,問題意識及び関心を記述するよう課しています。
書類は外枠しか設けていないA3の用紙1枚で,4年間何を勉強してどう成長したいのかを自由に表現する仕様です。これは初年度の試験実施からほぼ同じ形式にしており,生徒から提出される書類はとにかく創意工夫が凝らされています。

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「学修計画書」概要
探究テーマの内容と,テーマに基づいた学びの計画を記述
◆探究のテーマ
 ①テーマ/②テーマの説明(何を探究したいかを具体的に記述)/③テーマを設定するに至った理由(問題意識および関心を記述)
◆学びの計画
 探究に向けた目標を定め,科目の履修計画を立て,必要であれば課外活動も組み合わせて,入学から卒業までの学びの計画を自由に記述。
※西南学院大学ホームページ「2023年度経済学部 総合型入試(学びと探究型)学修計画書」より

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小出氏:出願書類は以前に比べて,細かく書く学生が増えてきました。初年度に関しては手探りの状態でしたが,2年目以降は特に,真面目な学生が集まっています。シラバスを公開していますので,受験生は各科目の内容をよく理解しています。
 経済学部の総合型入試では,書類上で見られる能力もありますが,一方で,やはり学生の確かな学力を見たいので,経済学科と国際経済学科の模擬講義をそれぞれ90分実施し,その後60分で論述するという試験を実施しています。この試験では,単に事前に暗記するだけでなく,その場で聞いたことを咀嚼してすぐに構成し,記述できるかを試しています。あくまで政治経済や現代社会といった,高校で十分に勉強する内容を大学の授業風に講義し,それに対する問題意識や瞬発力を見ることが目的です。
金子氏:「総合型入試」の志願者は,4年経過して徐々に増えている状況にありますね。

 

教員が1対1でサポートしながら,研究を深めていく

小出氏:「総合型入試」に限らず指定校推薦も含め,秋に入学が決まった生徒には,外部の業者にお願いして数学と英語を動画で見て解き,期日までに提出する,という課題を全員に課しています。
 加えて「学びと探究型」入試合格者については,入試の時に提出された「志望理由書」「学修計画書」のテーマに沿って,1,2年次に指導する担当教員(アドバイザー)を1月頃に決めています。2月中には提出された書類に対してコメントし,「入学前学修アドバイス」というかたちで返します。研究テーマに関してのアドバイスは勿論行った上で,「頑なに同じことを追究するわけではなく,色々なことを勉強している間に,学びたいことが変わっていくのは自然な流れである」といったことも伝えています。コロナ禍で遠隔授業が行われ,高校生もPCスキルは向上しているはずですので,研究を一層深めるために,Word,Excel,PowerPoint等は積極的に活用していくよう指導しています。
 入学式の直後には,担当教員との顔合わせを行います。その後学生は2年間,半期ごとに「学修結果報告書」を書き,担当教員へ提出します。報告書では今期の学修を振り返って良かった点と課題,来期はどのような学修に取り組みたいかを挙げてもらい,担当教員がその文章に対してコメントとアドバイスを記入して,学生に返します。この「学修結果報告書」には,学生が取り組んでいるテーマや研究についての情報が集約されています。

 

高校での探究学習への取り組みが,入試に直結する

金子氏:探究学習に関しては,どう指導していいか分からないという高校の先生も多く,指導が進んでいない高校は,総合型入試への出願が少ない傾向にあると感じています。一方で,日頃から探究学習をカリキュラムに組み込んで力を入れている高校もあり,やはりそういった学校の生徒の方が,総合型入試に向けた探究テーマの選択の幅も広がると思います。
小出氏:以前福岡市内のスーパーグローバルハイスクール(SGH)の生徒が,本学の学生とポスターセッションで一緒になったことがありましたが,非常にレベルが高い印象を受けました。そういった取り組みが進んでいる高校の生徒であれば,本学の総合型入試においても間違いなく評価が高いと思います。
金子氏:高校へ向けた取り組みとして,本学はホームページでも出張講義を公に募集しています。最近は,鹿児島県の高校からも引き合いがありました。附属校を有していることもあり,本学の教員が様々な高校へ出向いて授業を実施する取り組みは,盛んに行われています。
 

 

「総合型入試」入学者の成長への期待

小出氏:「学びと探究型」で入学した学生には4年時に,卒論または卒論に準じたゼミ論文を書いてもらい,探究の成果を残してもらう予定です。入試の際に提示したテーマからそれる学生もいますが,やはり勉強していく中で学びたいことは変わって当然だと思うので,そういう意味では当初の学修計画を変更する学生も,それなりにいるのかなと思います。ですので,1回目の入学者に関しては教員が4年間その学生を見て,どう成長したかということを報告書にして記録しています。もちろん学生自身の振り返りも重要ですが,今のところは客観的に見て,1期生の学生はどう成長したかということを,教員が報告する予定です。
 また「総合型入試」で入学した学生が,卒業後にどういう風に活躍するかという調査は,大学としても実施したいと思っています。さらに,今後は「総合型入試」合格者の学生同士の交流の場を設けていきたいですね。現状ではどうしても教員と学生,1対1の関係でしかなく,それだけでは研究は進みません。大学では学生が主体的に学びたいことに取り組み,自由に過ごして欲しいですし,学生同士の横の連携を取りながら,互いに高め合っていく,そういう場を作りたいなと思っています。「総合型入試」の2期生以降の学生についても今後,卒業後の進路や他の学生に及ぼす影響について,大学内での情報収集や分析も含め,調査を進めていきたいです。

(2022.07.12取材)

 

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