【特集】探究学習と大学入試
➊探究は絶対に入試に使える
産業能率大学入試企画部長 林巧樹
- 2022.07.16

高校の探究学習は総合型選抜や特色入試にどう繋がるのだろう?――こういう疑問を抱いている高校の先生方は未だ数多い。そこで大学の入試担当の方へ,探究学習が生きる入試方式や,探究学習を経験した人材を求める理由などを直接伺うことにした。
今回ご登場いただくのは,産業能率大学で入試企画部長を務める林巧樹氏。2000年代から特色入試を実施し,様々な形で高校での探究学習を支援してきた産業能率大学が現在実施している,探究学習が生きる入試方式や,特色入試を経て入ってきた学生の特徴などについて語っていただいた。
高大接続を実現した「キャリア教育接続方式」入試
林氏 高校で総合学科が生まれた時に「課題研究」という科目が始まって,総合学科ではかなりの時間とコストをかけて取り組んだんですが,「課題研究」があまり入試に繋がらない,だからはっきり言えば教員も生徒もモチベーションが上がらない,という話を総合学科の校長先生からよくお聞きしました。
その当時から本学はキャリア教育や「課題研究」を支援していたので,そこで「課題研究」そのものを評価する入試を作ってくれないかという話が2005,6年頃に出てきました。そうして作ったのが,今も総合型選抜で採用している「キャリア教育接続方式」(※)なんです。まさに高校でやっていた「課題研究」のプレゼンを,そのまま入試で活用してくださいというロジックで作りました。ですので,最初は総合学科の方だけに向けて案内をしていたんです。
※キャリア教育接続方式・・・https://www.sanno.ac.jp/exam/system/special/career.html

成果ではなく資質・能力を見る「未来構想方式」入試
林氏 その後2019年から,新指導要領の先行実施で「総合的な探究の時間」が始まりました。これまでの入試方式は課題研究や探究で作ったものをそのまま持ってこれます,というパターンなんですが,「総合的な探究の時間」開始を受けて新しく作った方式は,どちらかというと探究で培われた資質・能力を発揮できるものにしました。文部科学省が言うところの「主体的・協働的な学び」によって培われる資質・能力を入試で測らせてもらおうと,今模索しながらやっている感じです。
探究で培われる資質・能力で何が一番大事かというと,「問いを立てる力」と「課題を解決しようとする力」であり,そこには意欲も当然含まれてくると思います。そうした資質・能力を見ようとして,2年前から「未来構想方式」(※)を一般選抜で始めています。
※未来構想方式・・・https://www.sanno.ac.jp/exam/system/general/fcm.html
今年は「2040年の未来町」という架空の話について課題を出したんですが,実際には2020年くらいまではノンフィクションなんです。そこから先はフィクションで,町が廃れていきます。廃れたのは何が原因だったのか,という問いを自分で見つけてテーマを決めて,そこから町が廃れないためにはどうしたらよかったのか解決策を考える。こういう入試方式を行うことで,まさに先ほどお話したような資質・能力が測れるかなと思っています。

スマートフォン持ち込み可の「MI方式」
林氏 今年度から始める「MI(マーケティング・イニシアティブ)方式」(※)でも,社会課題を取り上げることにしています。高校生は探究学習で何らかの形で社会課題に触れたことはあるでしょうし,それに対して自分なりに問題意識を持ったはずです。課題自体は毎年本学から異なるものを出題していきますが,例えば少子化と言われた時に,少子化の中で何に問題意識を持って,何をテーマにするのかをこの方式では見ていきます。女性が結婚して出産しなくてはいけないことに対して,結婚は本当に必要なのか,あるいはもっと女性が働く環境をよくしない限りやはり結婚・出産は大変なのか,そういった「問いを立てる力」と「解決する力」を見ようというのが「MI方式」です。
※MI方式・・・https://www.sanno.ac.jp/exam/system/special/mi.html
ですので単純に言うと,探究を面白がって取り組んだ生徒だったら,きっとこういう社会課題を投げかけても面白がって考えてくれるだろう,そして「こういうことなら自分は得意だな」とか「数学で受験するより有利かもしれないな」とか,そんな風に思える受験生に来てほしいということで始めた入試です。
また,「MI方式」では試験会場へのスマートフォン持ち込みを認めています。記憶を一生懸命手繰り寄せるのに,キーワードだけでも頭に入っていれば,それをスマホで調べると意味が出てくる。そこから何が重要なのかを絞り込むこともできるので,検索するためのスマホ持ち込みをOKにしています。
もちろん書籍で調べたり,いろんな現実の声を聞いたり,大事なことは沢山あるんですけれど,もうこのご時世ネットで調べるということ,それを抜きにして学びを語ってはだめなんではないかという思いもあって,スマホ持ち込み可にしたんです。

主体性があって,真面目な学生たちが集まる
林氏 「キャリア教育接続方式」で入った学生は,本学では優秀な学生とみられています。この方式を14,5年やってきて,入ってくる学生のコンピテンシーが非常に高いことが教員に認知されていて,就職もすごく強い。コンピテンシーが高いから,キャリアについても自分で明確な目標を立て,その目標に向かって解決策を考える習慣ができていると思います。
そしてこの方式で入学してくる学生が増えてきて,それが結果的に他の入試にもいい影響を与えています。主体的に学習する学生が多いので,ここの学生は一生懸命勉強する人が多い,真面目に取り組む,といった大学の評価に繋がり,そういう楽な大学生活を送りたくない学生が来てくれます。「楽して単位を取りたいんだったら産能大には来ない方がいいよ。大学卒業資格だけ欲しいんだったら,他の大学へ行った方がいいよ」と受験生にはよく言っています。
「未来構想方式」もまだ入学者数はそれほど多いわけではないですが,それでも今年はようやく2桁ぐらいにはなりました。本学は1年生からゼミがあるんですが,ゼミ1クラスに1人くらい,この方式で入った学生がいてくれるので,そうすると,やはり未来構想で入った学生は課題意識があるよねという風に見えるし,教員も,ああ未来構想の学生だという風に注目するから,本人もプレッシャーは感じるみたいですね。

特色入試は探究をやっていると有利
林氏 探究の経験が役立つことを狙いにした入試を色々と実施しているので,我々も探究がもっと高校で広がり,真摯に取り組んでくれることを願っています。
本学に限らず,どの大学でも特色入試は絶対に探究をやっていると有利です。正直,京都大学の特色入試ができた時,堀川高校向けの入試だと思ったぐらいですから。これから総合型選抜の合格者比率は,国立でもますます増えていくでしょうから,探究を一生懸命頑張れば,今まで東大や京大の合格者を輩出していないような高校でも絶対合格者を出せる,と思っています。
課題を見つけて,その課題を解決する力というのは,今の学生たちが生きていく社会で本当に重要になってくると思いますし,せっかく文部科学省も探究というものを通してその力を身につけさせようとしているんですから,各学校で真摯に取り組んであげてほしいなと思います。
探究は絶対に入試に使えます。どこの大学だって,探究で培われる資質・能力が高い人に来てほしくないなんて思っているわけがない。主体的に学習に取り組むわけだし,なぜこの学びが大事なのかをある程度理解した上で学ぼうとしているわけですから。
ただ,単なる成果だけで探究を見るのは,あまりやって欲しくないと思います。そこがもう終着点みたいになってしまうので。しかも,入試のためにアウトプットを作るようなことだと,それは本末転倒です。自分で何らかの形で身の周りにある課題を見つけて,それをテーマとして解決する,これが実行できて,そして少しでも何かが良くなったということを味わえたら,それは十分にすごい経験になると思うんです。
(2022.06.23取材)
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