【特集】探究学習と大学入試
➋「選別」ではなく「育成」のプログラムを
金沢大学学長補佐 山本茂/谷内通/山本靖彦/本田光典
- 2022.07.19

「結果」から「過程」へ。結果のみが評価されてきたこれまでの大学入試は,近年,高大接続の広がりとともに,プロセスを重視し,学びの段階から関わる形へと変わりつつある。
金沢大学は2021年度から,高大接続プログラムと連携した新たな入試の形である「KUGS特別入試」を実施。これは大学側から学びの場を提供し,生徒が探究の資質・能力を身につけながら入試のステップを進めることができる仕組みである。内容や導入の背景,今の高校生に求める探究学習への姿勢などについて,この度,担当の先生方にお話を伺った。
探究の資質・能力を重視した金沢大学の入試改革
山本(茂)先生 新しい特別入試を始めたのは2021年。きっかけとしては,「基礎的知識・技能を修得し,それらを活用して自ら課題を発見し,探究する能力を備えている点」と,「将来に明確な目標を持っており,主体的に行動し,他者と協働しながら,自身の夢を実現しようとする強い意欲を持っている点」を備えた生徒に入学してほしいという思いがありました。
この特別入試は,「KUGS高大接続プログラム」を受講し,課題解決能力を育んだ高校生に対して提案している入試方式です。そしてその背景には,『KUGS』(金沢大学〈グローバル〉スタンダード)という,本学が人材育成の目標とする理念があります。

大学での学びを体験できる「KUGS高大接続プログラム」
山本(茂)先生 「KUGS高大接続プログラム」は「KUGS LIVEセミナー」,「KUGS ラウンドテーブル」,「KUGS Webセミナー」の3つのカテゴリーに分けられており,生徒はその内の1つを選んで受講しています。
プログラム受講後は,「大学での学び」という題材で課題レポートの提出が必要です。プログラム内容は大学での学びの目的を考えるものになっているので,プログラムの要約と,気づいた問題,解決への道筋について,自身の考えをまとめ,提出してもらいます。
入学者の多様性を確保する「KUGS特別入試」
山本(茂)先生 「KUGS特別入試」への出願資格を得るためには,課題レポート「大学での学び」の提出に加えて,もう一つの課題レポートである「高校での学び」も提出が必要です。これは,高校生活の中で課題意識をもって解決に取り組んでいる学びについて,過程を明記しながらまとめるというものです。
提出されたレポートは,大学生のレポートと同様の基準で評価しており,基準に達しなかった場合は再提出を認めています。大学生と同じ基準というのは生徒にとっての負担が重く,その分サポートは手厚く行わなければなりません。担当者から受講生へのフィードバックや,相談会の実施など,なるべく生徒が取り組みやすい環境を心掛けて支援しています。
評価基準のルーブリック

探究活動を核として広がる入試改革
山本(茂)先生 ちなみに令和4年度入試からは,グローバルサイエンスキャンパス事業(GSC)の修了も「KUGS特別入試」への出願資格として認めています。
GSCとは,国⽴研究開発法⼈科学技術振興機構(JST)の支援を元に,卓越した意欲能力を有する高校生を募集し「国際的科学技術人材」を育成するためのプログラムを大学が実施していく事業で,金沢大学もGSC実施大学のうちの1つです。
参加生徒は大学の先生の元で,論文投稿や国際学会での発表を目標として研究に取り組むことができ,プログラムを通じて早い段階から大学での学びに触れることができます。
「KUGS高大接続プログラム」以外にも積極的な生徒は受け入れていこうという方針で,この度GSCの修了も出願資格として認め,間口を広げました。
谷内先生 加えて,改革の一環として,一般入試出願の際に提出する調査書の中身も評価の対象になりました。この中には探究学習の中身や評価を書く欄もあり,高校時代に取組んだ内容は,一般入試でも評価しています。
山本(茂)先生 後期日程廃止や個別学力検査の重視など,各学類のポリシーにあった生徒を選抜したいという狙いで一般入試が大きく変わっていますが,探究学習は評価基準の1つとしても活かされていますね。
未だ課題は多い「特別入試」という枠組み
谷内先生 実施してみた中で,高校の先生方になかなか認知いただけていない点は苦労していますね。やはりまだ,従来型の学力を伸ばす教育を重視する先生は多いです。特別入試と聞くと求める学力は「まあまあ」といった印象を持たれがちであるため,高校側から生徒に積極的に勧められていない印象を受けます。見方を変えれば,このプログラムを自身で見つけて取り組んでくれるという生徒は積極的に動ける子たちだと考えることもできますが,浸透がなかなか進まない点は悩ましいですね。 また,我々の求めるテーマと提出されるレポートのズレも課題の一つです。
レポート作成についての動画教材を公開してコツを伝えるようにはしているのですが,それでも,セミナーの要約と感想文のみであったり,高校の取組を箇条書きで挙げるのみになっていたりする提出物が多いです。そういった時に,こちらの要求をどう伝えていくかという部分は,難しいと感じています。
山本(茂)先生 高校の先生方も,特色ある入試の対策がやはり指導しにくいと感じている印象は受けますね。一般選抜の場合は画一的に指導できる部分がありますけど,特別入試はそうはいかないので,取りまとめる先生方から大変という声は聞きます。
谷内先生 大学の側もまだ試行錯誤の途中という印象はあります。入試改革は他の大学も行っていますが,特別入試を全学部ほぼ共通のやり方で導入というのはなかなか難しいことのようで,いくつかの大学がこちらへ調査に来られたりしました。
成果より過程。より良いプロセスを生むための育成を
山本(茂)先生 初年度は十分に告知できていなかったこともあり,レポートの提出数が少なかったのですが,徐々に増えてきています。内容も,プログラムの数が多くなってきているので,生徒が自身の興味から選びやすくなっていると感じます。
谷内先生 課題レポート「高校での学び」の中で,探究学習を題材にしたものが増えてきており,探究活動も徐々には浸透してきていると感じています。
ただ生徒さん(達)には,探究学習の成果そのものよりも,取組の中での気づきを重視してほしいです。
課題レポート「大学での学び」も同様に,ただ受動的にセミナーを聞いて感想をまとめるのみでは不十分です。探究学習に普段から取り組むことで,問題意識を持ってセミナーを受講することができるようになり,課題解決の観点でレポートが書きやすくなると思います。
「KUGS高大接続プログラム」は育成を意識したプログラムですので,単に受験で光るレベルの人たちを選別しようとしている訳ではありません。このプログラムに参加することで大学での学びを知ってもらうことと大学での学びに必要な力を身につけてもらうことが目標です。これは,レポートの再提出を認めている背景の一つでもあります。レポートには早めに取り組み,一度はダメだったとしても,我々からのコメントを参考に時間をかけて再挑戦して欲しい。そこでの頑張りが探究の資質・能力の強化に繋がる筈です。
受験生の皆さんには,大学で何を学ぶのかをよくイメージした上で,そのために必要な力を鍛えながら進学を見据えてほしいですね。
(2022.6.28取材)
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