ペタコさんの 和のある暮らし
[第5回]秋の彩り
石橋富士子

深まりゆく秋,深く色づいた自然の色彩があちらこちらで競い合うようです。
暦の上では,9月から袷となっていますが,昨今の異常気象や生活環境の変化で,季節の「着物のきまりごと」は緩くなりました。私は重宝なので単の着物を一年中着ています。季節感に気をつけて,青や白などのスッキリとした組み合わせは夏に楽しみ,秋には茶や山吹色,灰色など秋の景色にとけ込むような配色を選んでいます。生地の素材も,薄手から厚手の物に変えていきます。
外出するときには籐で編んだカゴが好きでしょっちゅう持ち歩きますが,これも季節感が大切。中身が見えないように被せる手ぬぐいの色目や柄を,秋色に変えるだけで,ずいぶん印象が変わります。
秋の夜は,お月様の色味も淡くて澄んだ夜空に,ふんわり浮かんできれいです。ロマンチックに月見の酒宴もいいですね。
こんな時です。縁側が欲しくなるのは。
ほどよく冷えた日本酒と酒杯,少し濃く味付けした芋の煮物を添えて縁側へ座り,ちびりちびり。
どこからともなくコロコロコロ……,と虫の音を聴きながら差しつ差されつ。まさに縁側があって成立する「日本の秋の美」です。
さて,月にはウサギが住み,餅をついている。幼いころ大人から教えられました。言われてみれば,そう見えるような気がしました。
ところ変わって同じ月の影を,北ヨーロッパでは本を読む老婆,カナダではバケツを運ぶ少女,インドでは大きな蟹,アラビアでは吠えているライオン!ベトナムでは大きな木の下で休む男,南部アメリカではワニと,国によって実に様々な見方をしています。
縁側で見上げた月には,口を大きく開き吠えているライオン。この見立ては「しっとり酒宴」より,「にぎやかなカーニバル」がぴったりです。
静かなお月見。中秋の名月にはさらさらとススキの穂が揺れ,光る月見だんご。
うん!やっぱり私にはこっちでしょう。
(2009年10月25日発行 家庭科通信40号掲載)
著者プロフィール
石橋 富士子(いしばし ふじこ)
毎日を着物で暮らすイラストレーター。教科書,絵本などの他,和小物製作デザインやオリジナル落雁の型を使った落雁作りワークショップなどを開催。「家庭科通信」の表紙も創刊時から手がけている。著書に「知識ゼロからの着物と暮らす・入門」「知識ゼロからの着物と遊ぶ」(幻冬舎)。着物をもっと楽しむための刺繍和小物をつくる富士商会を2015年設立。https://fujipeta.com/
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