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授業のコミュニケーション学
[第7回]クイズで興味を引く
奥原剛

 私が以前,某学校で非常勤講師として心理学の授業を担当していたときのことです。全部で20人くらいの学生が入るくらいの教室で,そのうち半分が授業開始と同時に寝てしまうというクラスを受けもちました。起きている生徒を増やしたいと考えた私は,眠気覚ましに動画を見せてから,

クイズ→解説→(ときどきワーク)→まとめの教訓

のセットを,各回の授業で3~4回まわす構成にしました。すると,回を重ねるごとに,しだいに,起きている学生が増えてきて,10回目くらいの授業では,なんと全員が授業の最後まで起きて聴いてくれました。

 クイズは,確実に人の興味を引くことができる方法です。たとえば,テレビ番組は,視聴者の興味をつなぎとめるために,あの手この手を使っていますが,その代表が「謎」の力です。バラエティー番組で「注目のグルメ!」にモザイクがかかってCM を挟むとか,健康情報番組の冒頭で「最新の健康法!」にモザイクをかけて,視聴者がいちばん観たい内容を番組の最後まで明かさないとか。たいして興味のない内容でも,「早く教えてよ!」と思いながら,つい続きが気になって観てしまいますよね。人間は,そもそも謎が大好きなのです。

 人はわからないことがあると興味を引かれます。このことは,心理学でインフォメーション・ギャップ理論と呼ばれます。また,受験勉強で穴埋め問題を解くように,クイズ形式で考えると記憶に定着しやすくなります。このことは,生成効果(Generation effect)と呼ばれています。

 たとえば,次のような,2つの文のどちらが長く記憶に残るかを比べた実験があります。どちらが,記憶に残ったと思いますか?

 1.「歯の抜けた男が小切手にサインをした。なぜでしょう?」
 2.「歯の抜けた男が小切手にサインをした。新しい入れ歯の金を支払うために」

 正解は,1です。「なぜでしょう?」とクイズ形式にした文のほうが,長く記憶に残っていたのです1) 。私たちは,他人に何かを教えようとするとき,「相手に何をどこまで理解してもらいたいか」という発想をしていることが多いように思います。しかし,そうではなく,「相手にどんな疑問をもってもらおうか」と考えてみると,相手の興味を引きやすくなります。そうして,相手が疑問をもって自分で考えてくれたなら,話の内容が相手の記憶に残りやすくなります。たとえば,私の専門のヘルスコミュニケーションの分野では,「〇〇病は△△という病気です。〇〇病について解説します」といった「教えます」型のセミナー案内よりも,「〇〇が長引く理由とは?」「最近よく聞く△△って本当?」といった見出しを付けた「クイズ」型のセミナー案内のほうが,参加者が増えたといった事例があります。みなさんも,「生徒にどんな疑問をもってもらおうか」という視点をもっていただくと,生徒の興味を引きやすくなるかもしれません。

1)Pressley, M., McDaniel, M. A., Turnure, J. E., Wood, E.,& Ahmad, M.(1987).Generation and precision of elaboration: Effects on intentional and incidental learning. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 13(2), 291-300.

著者プロフィール

奥原 剛(おくはら つよし)

東京大学大学院 医学系研究科 医療コミュニケーション学分野 助教。
健康・医療にかかわる情報を,市民・患者にわかりやすく伝え,よりよい意思決定を促すための研究をしている。医療機関,健康保険組合,自治体等の医療従事者に対し,わかりやすく効果的な健康医療情報を作成するための研修をおこなっている。

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