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ペタコさんの 和のある暮らし
[第35回]リアルイベントを楽しむ
石橋富士子

 私はイラストレーターとして仕事を始めて35年ほどになりますが,もうひとつ,和服の小物や刺繍半衿を製作する仕事もしています。こちらは着物で暮らす生活の中で,自分が胸元につけたいと思う刺繍半襟をつくり始めたのがきっかけで,会社を立ち上げてもう10年が経ちました。

 自宅の一室にミシンを置いて半衿をつくっています。一枚一枚丁寧に刺繍をした半襟は,おもにウェブショップで販売。でもこうしたウェブでのお取り引きはお客様と直接お目にかかることがありません。

 ウェブショップはいつでもどこでもお買い物をしていただけるのでとても便利ですが,実際に商品を見たいというお客様も数多くいらっしゃいます。手ざわりや質感など実際に確かめたい気持ち,よくわかります。それには手に取っていただくのが一番,とそんな機会をもつために対面でお会いできるリアルなイベントに積極的に出店していました。

 そこへコロナです。その影響でここ3年ほどはイベント出店を控えていましたが,今年に入って万全な感染対策という条件つきでイベントの予定を増やすことにしました。この夏までに月に2度ほどおもに東京を中心に出店する予定です。

 会場は,百貨店の呉服売り場や催事場の場合が多く,会期はおおむね1週間ほど。百貨店は駅から近いので場所もわかりやすく,何かのついでに立ち寄ることができる,と好評です。コロナの感染予防としては密にならないよう気にかけつつも,おおぜい来てくださることを願って会場に立ちます。

 インスタグラムやツイッター,フェイスブックなど SNS のおかげで,遠くからも来てくださったり,私のつくった刺繍半襟をつけて来てくださるお客様もいらして本当にありがたく,やはり実際に顔を合わせてお話しできるのはとても楽しい時間です。

 「じかに見たかった」と皆さん口をそろえておっしゃいます。微妙な色のニュアンスや刺繍のボリュームを確認したり,半衿を襟にあてて,鏡でどんなふうに見えるか確認をしています。姿見で2メートルくらい離れて,遠目にはどんな風に写るのかをチェック。着物好きは「美」を追求される方が多いのでこちらも気が抜けません。

 スマホに撮りためた着物姿のショットを見ながら,新しい一枚を一緒に選んで悩んだり,半衿の簡単なつけ方のコツや洗い方などの疑問にもその場で答えさせていただきます。

 ときにはオーダーなどの相談も。結婚式や入学式など,ハレの日の着物に合わせた一枚の半衿で楽しい予定の準備をお手伝いします。こうしたらどうでしょう?こんな色・模様はいかがでしょう,と胸に浮かんだアドバイスに「素敵!」とにっこりしてくださると私も心から嬉しくなるのです。
 

(2023年4月1日発行 家庭科通信72号掲載)

 

著者プロフィール

石橋 富士子(いしばし ふじこ)

毎日を着物で暮らすイラストレーター。教科書,絵本などの他,和小物製作デザインやオリジナル落雁の型を使った落雁作りワークショップなどを開催。「家庭科通信」の表紙も創刊時から手がけている。著書に「知識ゼロからの着物と暮らす・入門」「知識ゼロからの着物と遊ぶ」(幻冬舎)。着物をもっと楽しむための刺繍和小物をつくる富士商会を2015年設立。https://fujipeta.com/

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