ペタコさんの 和のある暮らし
[第9回]桜咲く
石橋富士子

四季おりおりの花に恵まれた日本ですが,桜ほど開花を待たれる花はないのではないでしょうか。寒い季節がようやく終わり,新しい季節への幕開けを飾るように咲く桜。ちょうど入学や卒業,そして就職へと人生の節目を花吹雪で祝ってくれているようです。
関東の桜の代表格はソメイヨシノ。その淡い色は早春にふさわしい。着物の柄として人気があり,着物の帯,襦袢,帯留めなど,桜づくしで揃えることが出来るほどです。
着物の柄は,ほんの少し季節を先取りするようにといわれます。ですからそろそろ開花のたよりが届く時期には蕾や二分咲きの絵柄,蕾がほころびかけた頃に着るのは,満開の桜,そして満開の桜の下では散る風情の葉桜などを楽しみます。
自分で着ていて楽しいことが基本ですから,もちろん「桜の花が一番好きなの!」という方は一年中いつでも着てOKです。写実よりもモチーフとしての桜や,菊や紅葉やアヤメなど,他の季節の花と組み合わせた模様などはどの季節でも着やすいですね。
着物好きのお花見は,頭の働かせどころ悩ませどころです。桜の絵柄だけでは素敵だけど,当たり前すぎてしまうかしら。そんなときにはちょっとひねりをきかせて無地の着物+桜の刺繍半襟とか,水の流れの帯に桜の花びらの形の帯留め添えるとか。袂からちらりと覗く襦袢を桜づくしにするのも面白い?淡い桜染めの帯揚げというのも粋かしら? など,組み合わせを想像するのがパズルのようで楽しいですね。
食べる桜も好き。和菓子は手軽に四季を味わえるアイテムです。桜餅には,江戸風(長命寺餅のようなクレープ風)と上方風(つぶつぶの餅で餡をくるんだ大福のような道明寺)があります。塩漬けした桜の葉の良い香りがします。桜の花の塩漬けは桜湯としておめでたい席に登場します。炊き込みご飯やゼリーなどにも使われ,春の気分を盛り上げます。葛湯にさっと洗った塩漬けの桜を入れると,ピンク色の花びらが葛の中で広がり美しい。ほのかな香りも良く。体も温まるので花冷えの日におすすめです。
(2010年3月25日発行 家庭科通信41号掲載)
著者プロフィール
石橋 富士子(いしばし ふじこ)
毎日を着物で暮らすイラストレーター。教科書,絵本などの他,和小物製作デザインやオリジナル落雁の型を使った落雁作りワークショップなどを開催。「家庭科通信」の表紙も創刊時から手がけている。著書に「知識ゼロからの着物と暮らす・入門」「知識ゼロからの着物と遊ぶ」(幻冬舎)。着物をもっと楽しむための刺繍和小物をつくる富士商会を2015年設立。https://fujipeta.com/
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