ペタコさんの 和のある暮らし
[第22回]水引を生活にいかす
石橋富士子

春は入学,卒業など慶事が重なる季節ですね。祝う気持ちを添えて贈る祝儀袋には紅白の水引が添えられています。
近年の水引はとてもバリエーションに富んでいて,雑貨屋さんや文房具店では色も形も実に豊富な熨斗袋を前にしてどれにしようか迷うほどです。
水引は細く裂いた和紙を縒ってこより状にし,強度と張りを出すため水糊を引いて乾かしたものです。白,赤,金,銀などの色が主ですが,紫やピンク,緑色といった色に染められたものは,松竹梅,鶴亀などさまざまな造形を作るときに効果的です。梅一輪といった小さなものから羽を広げた鶴,めでたく長い尾をつけた亀などの大きなものまで,水引だけで作ることができます。
水引の結び方の基本は三種類。蝶結び,結び切り,あわび結びです。
蝶結びは結び目が簡単にほどけ,結び直せるので,幾度くりかえしても嬉しい祝時やお礼などに用います。
結び切りは,固く結んで解けない形。二度と繰り返さないようにという意味で結婚のお祝いや弔事,全快祝いなどに用います。
あわび結びはその昔「干しあわび」が祝儀ものとしてめでたいものとされていたことに由来する形です。略した絵が印刷されている祝儀袋もあります。
三種とも形は似ていますが全く違う意味を持つので,使うときには間違えないようにしたいものですね。
不思議と水引を使った祝儀袋は,絵やリボンやシールでは表せない「あらたまった印象」を与えます。私たちが暮らすものの溢れた社会では,そのあらたまった空気がとても新鮮に感じます。
また作って楽しみたいと思う方も増えているとみえ,水引への関心の高まりに応えて手芸材料店でも水引材料のコーナーが設けられて,講習会が開かれるばかりでなく,作り方や使い方を紹介した本も出版されています。
水引による造形は洗練されていてしかもシンプル。とても日本的です。軽い特徴をいかして帯留めや髪飾り,ブローチなどのアクセサリーなど新しい用途が広がっています。
古くから大切にされてきたものが,新しい使い方を見いだされ復活する。水引もそんなもののひとつかもしれませんね。
(2016年4月1日発行 家庭科通信58号掲載)
著者プロフィール
石橋 富士子(いしばし ふじこ)
毎日を着物で暮らすイラストレーター。教科書,絵本などの他,和小物製作デザインやオリジナル落雁の型を使った落雁作りワークショップなどを開催。「家庭科通信」の表紙も創刊時から手がけている。著書に「知識ゼロからの着物と暮らす・入門」「知識ゼロからの着物と遊ぶ」(幻冬舎)。着物をもっと楽しむための刺繍和小物をつくる富士商会を2015年設立。https://fujipeta.com/

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