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ペタコさんの 和のある暮らし
[第23回]花のある暮らし
石橋富士子

 街の花屋さんで見かける小さな花束,ワンコインブーケ。数本でバランス良く作られた小さな花束です。そのまま飾ってもよいし,小さなグラスや好みの空瓶などに花を分けて活けてもかわいらしくて素敵です。キッチンの窓辺や洗面所など,小さなスペースにたとえ一輪でも花があると空間が生き生きとしてきます。

 花は日々の暮らしのエッセンス。めぐる季節のリズムを私達に教えてもくれます。

 活け花が好きな義母は花を飾り,かたわらに季節の小物を置いて楽しんでいます。3月は桃の花菜花に小さな雛飾り。4月には桜を活けて,蕾が日々膨らむ様子を愛でています。スッキリとした菖蒲には紫色の敷物の上に小さな兜を置いて皐月を祝い,梅雨が近づく6月は薄紫の藤や虹色の紫陽花のそばに小さなカタツムリの人形を……。

 90歳を過ぎても季節の花を活けて楽しみながら日々を送ることに前向きなエネルギーや喜びを感じて,見ていて嬉しくなります。
 着物も同じ。ともすると動きやすく汚れの目立たない着物ばかりを選んでしまいがちですが,そこにはこだわることなく半衿や帯締などに季節の色や柄を添えるよう心がけています。春には明るい黄色や黄緑,ピンクや水色を。雑事の合間,鏡の前を通るときにふと目に映る春の色が気持ちを明るくしてくれます。

 着物や帯,豊富な模様の中でも好まれるのが花柄です。春には桜,薔薇,藤,菖蒲など,開花の季節に合わせた柄を楽しみます。ひとことで「桜」といっても表現する様は固い蕾から三分咲き,満開,散り始め,桜吹雪とさまざま。季節より少し早く使うのが粋,とされているので満開の頃には主役を本物の花にゆずり,着物には観世水や水面の文様を選んで桜は帯留や帯飾りで隠し味にします。近頃は綿や麻の無地や縞,格子などの着物が人気のようで広い世代で明るくきれいな色を選ぶ方が増えました。若く背の高い女性にも,着物に慣れ親しんだ方にも似合うそんな着物をこれまでなかった「新着物」として私は注目しています。たとえば無地ならスーツのようにシンプルなので,小物を用いたアレンジがしやすく,TPOで小物を変えれば,ふだん着からおしゃれ着物,あらたまったお出かけまで使えます。なによりお値段が手頃,さらに自宅で洗えることも人気の理由のひとつです。

 着物の人気は定着し,着る人が年々増えています。小物も種類が豊富なのでちょっと探せばすぐにお気に入りが見つかるはず。また最近の造花はとてもよくできていて種類もたくさんあるので器用な方なら手作りもオススメ。金具をつければ帯留や髪飾りに早変わりです。

 そんな風に気軽に飾ったり着たり,身近に花のある暮らしを楽しみたいですね。
 

 

 

(2018年4月1日発行 家庭科通信62号掲載)

 

著者プロフィール

石橋 富士子(いしばし ふじこ)

毎日を着物で暮らすイラストレーター。教科書,絵本などの他,和小物製作デザインやオリジナル落雁の型を使った落雁作りワークショップなどを開催。「家庭科通信」の表紙も創刊時から手がけている。著書に「知識ゼロからの着物と暮らす・入門」「知識ゼロからの着物と遊ぶ」(幻冬舎)。着物をもっと楽しむための刺繍和小物をつくる富士商会を2015年設立。https://fujipeta.com/

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