ペタコさんの 和のある暮らし
[第26回]菓子の和と洋
石橋富士子
- 2024.08.13
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1960年代当時の我が家のおやつといえば,シロップをかけたかき氷,きな粉をかけた白玉などシンプルなものばかり。スイカや梨,葡萄など,季節のフルーツをお菓子のかわりに食べていたような気がします。
口にしていた洋菓子はゼリーやプリンばかりでしたが,中学に入るとクッキーやケーキなど,甘い焼き菓子の本を見るのが楽しみになりました。
どんな材料で? どんな道具を? なぜケーキは膨らむの? クリームのバラの花はどうやって作るの? 本に載っている写真を見るだけで疑問がわいてきます。
小学5年の時,家庭科の授業でケーキに添える生クリームを作ったことがあります。私が育った土地は横浜とはいえまだまだ田舎,生クリームを扱う店もなく,牛乳屋さんに予約しなければなりませんでした。そして数日後手にした牛乳瓶入りの生クリームは高価で,賞味期限もとても短かったことを覚えています。
多くの洋菓子作りには,温度調節の出来るオーブンが必要です。温度を間違えればシュークリームのシューも膨らみません。アップルパイは焦げないよう庫内の温度を均一にする必要がありますが,家にあった当時のオーブンはまるでお釜のようにガスレンジで温めるタイプだったので,すぐに底の温度が上がってしまい,ケーキは焦げてばかりの完全敗北。クリームを絞る道具やケーキ型などもなく,手にしたお菓子の本は眺めるだけの「憧れのお菓子カタログ」となりました。
長らく洋菓子に憧れを抱いてきましたが,10年ほど前,金崎晴子さんの「電子レンジとフードプロセッサーで和菓子が出来る」という本に出会ってとつぜん和菓子に興味を抱くことになります。まさかお饅頭に練り切り,きんとん,栗羊羹などを自分で作れるなんて思ってもみませんでした。がぜん和菓子作りにハマりました。
和菓子は基本的に砂糖,粉,豆,その他ほぼ4種の材料で作れます。それらを組み合わせていろいろな季節を感じる形にして楽しむことが私の好奇心と舌を楽しませてくれたのです。中でも蒸し饅頭は形もまん丸でシンプル。でも中に詰める餡の味や皮の色を変え,さらに焼き印のアクセントを付ければ季節感を演出することができます。練り切りやきんとんなども茶巾で絞ったり,裏ごし網を使ったりと,ちょっとした工夫できれいな和菓子が出来上がります。
作りたてが美味しい練り切りの生菓子などは,友人と一緒に作って美味しいお茶とともに味わうのが最高。なんと美味しくしかも贅沢な時間じゃないかと語り合いました。近頃人気の和菓子作りのワークショップも,その人気の秘密はそのあたりにあるのかしら? と想像します。
洋菓子と和菓子,どちらも美味しいけれど,年齢を重ねるにつれシンプルでやさしい味の和菓子の方に心が寄せられます。
菓子を,より濃厚で珍しい素材を用いてさらなるリッチさを目指すのが洋菓子,過度な素材をそぎ落としてシンプルに研ぎ澄ましていくのが和菓子……そんな印象を持っている私です。
(2017年9月1日発行 家庭科通信61号掲載)
著者プロフィール
石橋 富士子(いしばし ふじこ)
毎日を着物で暮らすイラストレーター。教科書,絵本などの他,和小物製作デザインやオリジナル落雁の型を使った落雁作りワークショップなどを開催。「家庭科通信」の表紙も創刊時から手がけている。著書に「知識ゼロからの着物と暮らす・入門」「知識ゼロからの着物と遊ぶ」(幻冬舎)。着物をもっと楽しむための刺繍和小物をつくる富士商会を2015年設立。https://fujipeta.com/
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