ペタコさんの 和のある暮らし
[第28回]毎日の着物,定点観測
石橋富士子

毎日を着物で暮らすようになって16年。
「今日は何を着よう?」と,この生活を始めたころのコーディネートを考えてウキウキとしていた日々も今は遠く,近ごろは似たような組み合わせが続いてちょっとマンネリ気味。せっかく始めた着物生活も,これでは何だか味気ないなと思い始めていました。
そこで今年,ふと思いついてお正月から毎日のコーディネートを写真に撮り始めました。着物と帯と半衿,帯締や和装小物などを並べて撮影し,ブログや SNS にアップするのですが,これが思いのほか楽しい。毎日の写真を並べてみると,無意識に選んでいた着物から,客観的に見えてくるものがあるのです。その日の気分や気候,予定している作業に合わせて組み合わせを変えており,あたたかい日には春の花を思わせる桃や黄などの色を,寒い日にはあたたかいように木綿の紬を,雨の外出には濡れてもシミが目立たないような濃い色の洗える着物を,自然と選んでいました。写真を撮らなければ気づかなかった興味深い点です。
上から下まで,すべてを毎日変えるのがたいへんなときには,時間的にもお手軽な「部分変えコーディネート」を。前日の組み合わせの一部を変えて,それに合うよう小物の色を決めていきます。ふだん選ばない色を合わせてみると,存外しっくりピッタリ収まったりして,そんなときは新鮮な驚きで小躍りしてしまいます。ワードローブの着物の数はそれほど多くはないけれど,自由な発想さえあれば,数え切れないくらいのバリエーションが生まれそうです。
写真は「毎日の着物・○月○日」と題して,ブログへの投稿を続けています。ご覧になった方に「着物ってこんなに自由でいいんだ! 私も着てみようかな」と思っていただけたら,こんなに嬉しいことはありません。
着物ブームはすっかり定着し,雑誌でも「きれいな着付け」が特集され,着付け師の方々が催す着付け教室はどこもにぎわっています。それは嬉しいことですが,一方で「ねばならない」という価値観にとらわれて「きちんと着ることばかりがエスカレートしなければよいな」とも感じています。
本来ある着物の魅力を見失わないように。60を過ぎて,ようやく肩の力を抜いた,普段着としての着物暮らしを見つけたそのようすを,つつみ隠さずみなさんにお伝えできれば,と思っています。
(2019年4月1日発行 家庭科通信64号掲載)
著者プロフィール
石橋 富士子(いしばし ふじこ)
毎日を着物で暮らすイラストレーター。教科書,絵本などの他,和小物製作デザインやオリジナル落雁の型を使った落雁作りワークショップなどを開催。「家庭科通信」の表紙も創刊時から手がけている。著書に「知識ゼロからの着物と暮らす・入門」「知識ゼロからの着物と遊ぶ」(幻冬舎)。着物をもっと楽しむための刺繍和小物をつくる富士商会を2015年設立。https://fujipeta.com/
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