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ペタコさんの 和のある暮らし
[第32回]着物の楽しみ方
石橋富士子

 毎日を着物で暮らすようになって,25年以上が経ちます。そのきっかけをつくってくれたのは,落ち着いた色合いの着物を何枚も譲ってくれた義母でした。

 着物に興味をもちはじめると,どこからともなく着物が集ってきます。これは,着物好きなら誰でもある経験ではないでしょうか。いっしょに帯や小物もいただいて,以来着るものには不自由せずにすむありがたさ。

 適度に袖を通し,風に当てることが着物には一番よいこと,と着物の維持から始まった着物生活も,いつしか毎日となりました。

 25年も経てば,好きで出番の多い着物ほど傷みがひどくなってきます。汚れ,裾の擦り切れ,縫い糸が弱くなって,ちょっとしたことで裂けます。お尻のところなどは布自体が薄く弱くなっていますし,衿や袖口はよれよれ,さらに衿には黄ばみも。ふだんの着物だから,と「洗い張り」など本格的なお手入れをしなかったのもよくなかったようです。

 そして,変化は私にも。当たり前ですが25年という時間は体型も変えてしまいます。そして色の好みや合う色もそろそろ「見直す時期」なのかもしれません。そう気がつくと自分が着たいと思う,好ましい色,落ちつく素材の着物が無性に欲しくなってきました。

 考えてみれば,今まで着ていたものは義母や知人からいただいたもの。目利きが持っていたものはよい素材を使って織の技術もすばらしく,着ても楽しく誇らしい気持ちになったものでした。だからそうと気がつかないまま,今日まできてしまったけれど,私が欲しい着物とは少し違っていたのかもしれません。

 そう気づいたものの,このコロナ渦では出歩いて気軽に買い物もできません。そこで WEB です。いろいろなネットショップをのぞいたりオークションをチェックしてみます。すると驚くほどたくさんの解説がついた着物の写真があり,しかも私の知らないことばかり。勉強するつもりで毎日読むようになりました。着物の織や産地,素材や技術的なことに加えて寸法のことまで。ここへきて,なんと私は着物のことを知らぬまま過ごしてきたのか,とあきれました。

 毎日のぞいて気になる着物をリストアップ,並べているうちに自分は花柄や具象よりも縞やシンプルな格子模様,薄いピンクや紫色より黒や紺,茶などが好き,ということがわかってきました。帯もインパクトのあるモダン柄。ようやくこれが今私が求める着物なのだと気づいたのです。

 皆さんも,ためしにそんなネットの使い方をしてみてはいかがでしょう? 新たな「今」の自分を見つけることができるかもしれませんよ。

(2021年9月1日発行 家庭科通信69号掲載)

 

著者プロフィール

石橋 富士子(いしばし ふじこ)

毎日を着物で暮らすイラストレーター。教科書,絵本などの他,和小物製作デザインやオリジナル落雁の型を使った落雁作りワークショップなどを開催。「家庭科通信」の表紙も創刊時から手がけている。著書に「知識ゼロからの着物と暮らす・入門」「知識ゼロからの着物と遊ぶ」(幻冬舎)。着物をもっと楽しむための刺繍和小物をつくる富士商会を2015年設立。https://fujipeta.com/

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