ペタコさんの 和のある暮らし
[第33回]カムカム浅草♪
石橋富士子

一年を通して観光客でにぎわう浅草に,最近用事で出かけることが多くなりました。隅田川に近い花川戸あたり。仲見世のような観光客方向けの派手な土産店もない街並みですが,私にとってはむしろふだんの浅草を感じ,好ましく思います。
花川戸と聞くと「煙管(キセル)の雨が降るようだ」の名セリフで知られる歌舞伎「助六」を一番に思い出しますが,管屋さんではなく下駄や草履の問屋さんが軒を連ねています。問屋といっても一見のお客さんにも小売してくれたり,曜日によって店頭に鼻緒職人がいて,下駄をすげてくれたり,ゆるんだ鼻緒を調整してくれます。
先日,お店で偶然居合わせたのは,着物を着慣れた小粋な着こなしの女性。話を伺うと「歳をとると足がやせるせいか,下駄が合わなくなるみたいで,今日は鼻緒を締めてもらいに来たの。」とのこと。歳を重ねると体全体が小さく細くなるような気がしますが,足の甲も薄くなるのかと想像しました。確かに,すき間のできた下駄をそのまま履くと危ないので。
ゆるんだ鼻緒を直してもらえるのはありがたいことです。私も,ゆるんだ鼻緒のまま,うっかり出かけないようにしなくては,と改めて思いました。けれど鼻緒のすげ替えや底のゴムの交換などを思い立っても,家の近くに履き物屋さんはありません。たぶん定期的に催されるデパートの和小物の催事に下駄屋さんが出店するのを待つ方が多いと思いますが,私もその一人でした。
鼻緒職人さんのいる履き物の問屋さんが浅草にいて,いろいろ相談に乗ってもらえそう。思ったより敷居は高くない。そう思ったら嬉しくなりました。便利なよいことは,着物好きに教えたくなります。
もっと気楽に,下駄屋さんに来てもらうきっかけがないかしらと思っていたところ,履き物屋さんの二階にギャラリースペースがあると聞き,ひらめきました!
まずは,私が和小物の展示販売会をして,浅草・花川戸を楽しむ日をつくってしまおうと。履き物の調整やおあつらえ,メンテナンスの相談までできるイベントを企画しました。ふだん使いの浅草を再発見してもらえるような気がしてワクワクしているところ。これから定期的にできればいいな,と思っています。
(2022年4月1日発行 家庭科通信70号掲載)
著者プロフィール
石橋 富士子(いしばし ふじこ)
毎日を着物で暮らすイラストレーター。教科書,絵本などの他,和小物製作デザインやオリジナル落雁の型を使った落雁作りワークショップなどを開催。「家庭科通信」の表紙も創刊時から手がけている。著書に「知識ゼロからの着物と暮らす・入門」「知識ゼロからの着物と遊ぶ」(幻冬舎)。着物をもっと楽しむための刺繍和小物をつくる富士商会を2015年設立。https://fujipeta.com/
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