ペタコさんの 和のある暮らし
[第1回] 半襟って楽しい
石橋富士子

着物で暮らし始めて早5年,暮らしの中ですっかり着物が体になじんできました。
私にとって着物は毎日をすごす普通服であり作業服です。動きやすく汚れにくく,汚れても目立たず,そして自分で洗えることも大切です。今日は何を着ようかなと,紬や木綿などの濃いめの色の着物に,ついつい手が伸びてしまいます。
縞は飽きずに着ることが出来てとても重宝,柄のないべ一シックなものは一年中着られ,半襟をプラスすれば雰囲気や気分を変えられるので,着回しの幅が広がります。
襟元の半襟は,ちょうど洋服で言えばスカーフのような感じです。
少ししか見えないのに印象強く残ります。自分の肌を美しく見せるアクセントカラーになったり,着物の色を引き締める効果があったり,絵柄や刺繍などで季節感やメッセージを添えることも出来ます。特別な集まりには関係する絵柄を盛り込むのもしゃれています。レースやビーズで思い思いに手作りする若い女性も増えました。元々「襟の汚れよけ布」だった半襟は,いつからこんなに楽しいアイテムに変わったんでしょう? この柔軟性に注目です。着物はこれからもまだまだ進化,変化して私たちの生活を彩ってくれる,そんな予感がします。
春には薔薇,ツバメに柳,睡蓮にカエルなどの絵柄がぴったり。梅雨には青梅,紫陽花(あじさい)などがあり,夏になれば金魚,朝顔,千鳥など続きます。
着物に季節を盛り込む豊かな衣類の遊びは,微妙に移り変わる四季のある日本だからこそ出来るもの。季節の花や鳥,風景を身にまとう着物のおもしろさを,一人でも多ぐの方に知ってもらいたいなと思います。
少しだけ季節を先取りするのが粋と言います。半襟は着ている本人からは見えないけれど,相手から見ると顔のすぐ近くにあり,目に止まりやすい所。会話が弾むきっかけも作ってくれます。小さな半襟ですが,奥深く楽しいのです。
(2008年5月25日発行 家庭科通信36号掲載)
著者プロフィール
石橋 富士子(いしばし ふじこ)
毎日を着物で暮らすイラストレーター。教科書,絵本などの他,和小物製作デザインやオリジナル落雁の型を使った落雁作りワークショップなどを開催。「家庭科通信」の表紙も創刊時から手がけている。著書に「知識ゼロからの着物と暮らす・入門」「知識ゼロからの着物と遊ぶ」(幻冬舎)。着物をもっと楽しむための刺繍和小物を作る富士商会を2015年設立。https://fujipeta.com/

詳しくはこちら
一覧に戻る