遠足っていいなあ
仲島正教

子どもの頃、遠足は一番の楽しみでした。先生になってからも、遠足は一番の楽しみでした。だって授業より楽しいのですから。(笑)
ある時私は遠足に「ラジカセ」を持っていきました。須磨海浜水族園に行った時です。月見山駅から水族園に向かう道中でラジカセのスイッチをONにするとピアノの伴奏が流れ出します。
「海へ行こう~♪海へ行こう~♪」(川口晃・曲「海へ行こう」)
子どもたちが歩きながら歌い出します。そんな笑顔の歌声に、行き交う街の人から、「かわいい~」「上手ね~」「いってらっしゃ~い」と声がかかりました。
ある時私は遠足に絵本を持っていきました。須磨中央公園に行った時です。昼食を食べ、自由に遊んだ後、木陰に子どもたちを集めます。そして絵本「花さき山」(斎藤隆介・作)の読み聞かせです。爽やかな風のもとでの読み聞かせに子どもたちは落ち着きます。そしていい顔で帰路につきました。
ある時私は遠足に「リコーダー」を持っていきました。奈良の若草山に行った時です。みんなで斜面に登っていきます。そして中腹から奈良公園を見下ろし、70人全員で「モルダウ♪」(スメタナ・曲)を吹きました。突然の「若草山リコーダーコンサート」にふもとの人たちから大きな拍手が沸き起こりました。
ある時私は遠足に「ゴム草履」を持っていきました。山東自然の家でオリエンテーリングです。あるポイントの問題は「ゴム草履に履き替えて、川を上れ!」えっなんで?と言いつつ子どもたちはゴム草履に履き替え、川を上がっていきます。するとそこに冷えたスイカを見つけるのです。少し向こうには、まな板と包丁を持った先生が笑顔で待っています。「このスイカ、めっちゃおいしい!」そんなサプライズに子どもたちは大喜びでした。
ある時私は遠足に「ビニール袋」を持っていきました。甲山森林公園に行った時です。お弁当を食べた後、私がビニール袋を開いていると、子どもたちが「先生にあげる」と言って、大切なおやつを私にくれるのです。みるみるうちにビニール袋はおやつでいっぱいになりました。それを見ていた大地(小2)が言います。
「先生っていいなあ~、おやつもらえるから」
「じゃあ、大地もせんせいになったら?」
「うん、ぼく先生になる!」
学校に戻り「さようなら」をした後に、大地がやってきました。そしてもう一度「ぼく先生になるで!」と言い残して帰っていきました。(笑)
さあ今年も爽やかな遠足の季節がやってきました。今年の遠足はどこに行くのだろう?何をするのだろう?子どもたちはワクワクして待っています。先生たちには、そんな子どもたちの期待にこたえる遠足をつくってほしいなと思っています。
ところで、あの大地は今どうしているかというと、ナント本当に先生になりました。今年で30歳になった大地は高校で体育教師をしています。
先日、一緒にお酒を飲みながら「ビニール袋」の話をすると、大地は、
「俺そんなこと言いましたかねぇ?」
あいつ覚えていませんでした。(笑)
著者プロフィール
仲島 正教 (なかじま まさのり)
兵庫県西宮市で小学校教師を21年、指導主事を5年勤め、2005年に48歳で退職し、教育サポーターとして全国各地で講演や研修を行う。現在、若手教師応援セミナー「元気塾PLUS」代表、尼崎市教育委員会教育委員。
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