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情報の荒波のなかで、自分に必要な情報を入手するには?
大野智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター)

Q:情報はたくさんあればあるほどよいのか?

 現在、テレビ、新聞、ネットニュースなどメディアが発信する情報は、「新型コロナウイルス感染症」の話題一色になっています。もしかすると、大量の情報に押しつぶされ不安な気持ちでいっぱいの人がいるかも知れません。あるいは、情報収集することに疲れ気味の人や、不安を煽るテレビのコメンテイターに辟易している人もいるでしょう。
 健康や医療に関する情報の見極め方・向き合い方(ヘルスリテラシー)には、情報を「入手」「理解」「評価」「活用」するという4つスキルが求められます。今回はこれらのうち1つ目の、情報を「入手」するスキルについてコツやポイントを解説します。
 
 東京都が実施した調査によれば、人々が医療に関する情報を入手する方法として主なものは、「テレビ(78%)」「インターネット(43%)・SNS(7%)」「家族・友人・知人からの情報(42%)」となっています(参考資料1)。こうした状況をふまえて、自分に必要かつ正確な情報を「入手」するための方法・手段として、「①大量の情報から正確な情報をふるい分ける」「②正確な情報が発信されている情報源のみにアクセスする」の2つの切り口で考えてみます。

①大量の情報から正確な情報をふるい分ける

 「病気に対して薬や治療法が『効く』」と言うためには、人を対象とした臨床試験によってその有効性が科学的に証明されている必要があります。これは医学・医療の領域における世界共通の考え方です。言い換えると、臨床試験で検証されていない薬や治療法については、効くのか効かないのかわからない、ということになります。
 ですから、目にしたり耳にしたりした情報が正確かどうかふるい分ける見極め方は、その情報に臨床試験による科学的な裏付けがあるのかどうかを確認すればよいことになります。
 方法としては極めて単純明快です。しかし、実際にやってみようと思うと簡単ではありません。たとえば、「新型コロナウイルス感染症」について、インターネット検索サイトGoogleで検索すると、「治療」では約4,560万件、「予防」では約6,850万件もの情報がヒットします(2020年4月21日現在)。はたして、これらの情報すべてについて、科学的な裏付けがあるかどうか確認することはできるでしょうか? 1,000万件の情報を1件あたり1分かけてチェックするとした場合、1日8時間、365日毎日確認し続けても約57年かかります。途方もない時間がかかり、現実的ではありません。
 また、テレビの報道番組では、時間的制約もあってか、情報の裏付けとして重要な臨床試験のことにまで言及することはほとんどありません。そのため、視聴者からすると、情報の真偽を確認できないということになります。

②正確な情報が発信されている情報源のみにアクセスする

 やみくもに情報を収集しようと思っても、大量あるいは真偽不明な情報に対峙して為す術がないという現実への次善の策・打開策として、信頼できる発信源からの情報に絞って収集するやり方について考えてみます。
 健康や医療に関して正確な情報を発信している代表的な情報源として、厚生労働省などの公的機関のウェブサイトが挙げられます。しかし、残念ながら、先に紹介した東京都の調査によれば、公的機関のサイトにアクセスしている人は5.5%しかいません。
 確かに、厚生労働省をはじめ公的機関のサイトは、お世辞にも見やすいとは言い難い現状があります。ですが最近では、専門家自身がインターネットを通じてわかりやすく解説する形で情報発信していたりしますし、公的機関も少しずつではありますがサイトを見やすくわかりやすくしようという努力の跡が見受けられる場面も散見されてきています。
 もうひとつ、東京都の調査のなかで情報源として挙げられていた「家族・友人・知人」の注意点について触れておきます。どうしても人づての情報は、伝言ゲームではありませんが、伝える人の考え方が入り込んでしまい、情報に偏りが生じたり脚色されたりといった問題点があります。さらには、よかれと思って情報を伝えてこようとする人が後を絶たない、善意の押し売りのような現実もあります。情報を収集する立場からは、可能な限りおおもとの情報発信源からの一次情報にアクセスするクセをつけてもらえたらと思います。

 新型コロナウイルス感染症に関して、普段の生活で気をつけること、予防法や治療法など、個人的には以下のサイトが参考になるとお勧めしています。

■新型コロナウイルス感染症に関する専門家有志の会
 note:https://note.stopcovid19.jp/
 Twitter:https://twitter.com/senmonka21

 人は誰しも損をしたくないと思うものです。不安に襲われているような状況であればなおさらです。そうなると、必死に情報をたくさん集めようとする心理が働くのは避けて通れません。ですが、情報の荒波に翻弄されてしまいますます不安になってしまっては本末転倒です。情報の断捨離あるいは断食が必要な場面があることも知っておいてもらえると幸いです。
 ということで最後に、冒頭のクイズ「情報はたくさんあればあるほどよいのか?」の答えは、「✕」になります。

[参考資料]
(1)東京都「健康と保健医療に関する世論調査」(平成28[2017]年)
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2017/03/07/01.html
 

【関連書籍】

https://www.taishukan.co.jp/book/b238158.html

 

https://www.taishukan.co.jp/book/b450301.html

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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