今こそ始める新しい大会のかたち

新型コロナウイルスの影響で,全中やインターハイをはじめとする様々な大会が中止となる中で開催が決まった「Virtual Distance Challenge(バーチャレ)」。
主催者である横田真人さんに,この新たなチャレンジについて詳しく伺った。また,大会運営を担う西本武司さんにも同席いただき,運営の近況をお話いただいた。
★横田真人さん
陸上競技800mのロンドンオリンピック代表。現在は,プロチーム「TWOLAPS」で日本トップレベルの中長距離選手を指導する。
★西本武司さん
長年にわたり,中長距離をメインに陸上競技を取材。中長距離の魅力を広めるべく,大会運営にも携わる。
【今夏をより熱くする新たなチャレンジ】
★まずは,バーチャレとはどのような大会か教えていただけますか?
一言で言えば「走りを動画サイトに投稿することで全国の中高生が参加できる,全員参加型のバーチャルレース」です。走る選手だけでなく支える・応援する人たちの姿を,記録だけでなく記憶に残すことで,すべての人が関われる大会を目指しています。もちろん,陸上部でなくても参加できます。
★大会公式ホームページ: https://virtualrace.jp/vdc2020/
★バーチャレでは,具体的にどんなことができるのでしょう?
公式レースではできないこともできるのがバーチャレの醍醐味です。たとえば・・・
・マネージャーが実況する
・顧問の先生も走ってみる(ケガに注意!)
・ゴール前の直線を50人くらいで走る(ケガに注意!)
・選手のすぐ近くで,「きつそうなのにこんなに速いの?」を体感する
・部活の垣根を越えて対決する
バーチャレは皆さんが創造性をもって創り上げる大会なので,固定観念にとらわれず,僕らも驚くようなわくわくする取り組みに挑戦してもらいたいです。
★「全員参加型」が印象的です。強調されているのには理由があるのですか?
世間では,トップになる子の活躍や部活動での過剰な指導などが注目されがちですが,そうでない子たちや適切に指導している先生たちの思いというのは,なかなか表に出にくい。だからこそ「そういう子どもたちや先生方の思いもかたちにしたい」という気持ちがあります。
【バーチャレに対する熱い思い】
★横田さん,コロナ禍で色々な思いを抱える中高生に伝えたいことはありますか?
練習ができていなかったり,新入生で部活になじめていなかったりなど,色々な状況下にある中高生の中には,「私なんかが参加していいのかな」「全国ランキングになるのは嫌だな」と感じる人もいるかもしれません。
それでも,引退を迎える3年生には,どんなかたちであれやってきたことをかたちに残すということをしてほしいです。陸上は結果がタイムに出るシビアな競技ですが,だからこそ,そこにかけてやってきた証をきちんと残すことが大事だと思います。また,仲間や顧問の先生,保護者の方にお礼を伝えたり,応援してもらったりすることを通じて,陸上競技に一度きちんと区切りをつけてほしいと考えています。
1,2年生には,新しいことへのチャレンジを大切にしてほしいです。僕も,嫌々始めた陸上でしたが(笑),チャレンジしたからこそ陸上競技の良さに気づくことができ,そこで見えた世界がありました。バーチャレに参加してみて気づくこともたくさんあると思うので,結果うんぬんではなく,「チャレンジする」ということを経験してほしいです。
★バーチャレには,学校の先生方のチカラも必要でしょうか?
今の状況下で新しいことに取り組むということは大変だと思いますが,先生方がこの大会を一緒に創ってくださることにとても大きな意味があると思っています。先生方が参加してくださることで,「スポーツって本当はこういうものだよね」というスポーツの本来の価値を広めることができると思うからです。多くの先生方が感じていらっしゃるであろう「教育現場でのスポーツの価値」を,今こそ一緒に再定義させていただきたいと願っています。
【アスリートとしての願い】
★ところで,この企画はどのように動き出したのでしょうか?
インターハイや全中の中止はインパクトが大きく,僕の指導するチームでも,何かできないかと考え始めました。チーム内では,「1番を目指したいのにその舞台がないのは悲しいよね。」という声も,「でも全中・インターハイってそういう子たちだけのものじゃないよね。」という声もあがりました。
全国大会に至るまでには校内選考や各地の大会があり,それぞれのレースが出た子にとっての全中やインターハイだと思うんです。だから,それを無視して語るべきではないよねと。「みんなに平等にスポーツの機会が与えられるべき」という考えは,「アスリートとしてどうありたいか,何をすべきか」を常に共有しているチームの中で自然に出てきました。
★「アスリートとして何をすべきか」の先に今回の企画が生まれたんですね?
「トップ選手を育てて競技のすそ野を広げる」ことも大事ですが,逆に「すそ野を広げることでトップ選手のレベルが上がっていく」ことも大事だと思います。だからこそ,「今後の陸上界・スポーツ界・社会を支えていく人たちって誰だろう?」と考えたときに,「ピラミッドの頂点であるトップ選手だけでなく,それ以外の選手へのアプローチが大事だ」という思いにたどり着きました。
★陸上・スポーツ・社会全体を考えてこその思いですね。そんな横田さんにとって,ズバリ陸上競技とは?
僕にとっての陸上競技は,競技そのものだけではなく,そこでの出会いなどを含む広がりのことと定義しています。そこで見た世界,そこでつながる人・・・それらすべてを陸上競技と捉えているんです。
★大会をつくっていく中でも,「横田さんにとっての陸上競技」を実感されていますか?
バーチャレは,陸上を通して知り合った人たちと世界観を共有しながら創っているので,僕が陸上競技をしてきたということが詰まっていると感じています。そういう,陸上を通して得たものも含めて,陸上競技やスポーツの魅力だと思っています。
【全国に広まりつつある盛り上がり】
★西本さん,バーチャレの開催について,反響はどうですか?
先生方からの問い合わせや「出るよ」という声が届いています。ほかにも,募集したわけではないのですが(笑),タイム計測やペースメーカーに手を挙げてくださる方も出てきていて,「自分たちにもできることがあるのでは」と,それぞれのアイデアで参加してくださることが大変嬉しいです。
中高生にも広まりつつありますが,大人の協力が必要な面もあるので,先生方がキーマンになってくると思っています。
★せっかくなので,運営側が楽しみにしていることもお話いただけますか?
1つ目は,いくつかの学校が(密を避けて)集まってのタイムトライアルが各地で行われることです。それを,僕らがSNSを通してリアルタイムで応援したいです。
2つ目は,皆さんと名勝負や物語を共有することです。速いことだけが価値ではない,動画ならではの色々な楽しみ方ができると思っています。
3つ目は,大会Tシャツを作ることです。インターハイや全中の大会Tシャツを着てランニングする人をよく見かけますが,今年はそれが手に入らなくなってしまうので,その代わりとして。着ている人同士が道で出会って,「あなたも参加したんだ!」とつながりができてほしいです。
ほかにも挙げたらキリがありません・・・!
あなたも青春に関われる。あなたにもできることがある。ぜひ一緒に新しいチャレンジをしましょう!
★横田さん,西本さん,貴重なお話をありがとうございました。バーチャレの成功を楽しみにしています!
★なお,横田さんが陸上競技について熱く語ってくださった記事『注目されなかったオリンピアン』も公開しました!こちらもあわせてお楽しみください!
https://www.taishukan.co.jp/hotai/media/blog/?act=detail&id=241
(6月26日zoomにて取材・収録,企画・編集=大修館書店編集部)

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