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正確な情報を見極めた後に考えなければならない大切なこと
大野智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター)

Q:正確な情報を入手さえすれば意思決定は簡単にできる? 

 「病気と診断され、医師から複数の治療の選択肢を提示された」
 「テレビで話題のダイエットサプリメントが気になる」
 このような場面で、「それぞれの治療法の効果はどれくらいか?」「サプリメントの効果を裏付けるデータはあるのか?」などの“正確な情報”は,判断の物差しとして重要な役割を担います。そして、この連載では、これまで健康や医療に関する正確な情報の見極め方について解説してきました。具体的には,信頼できる情報の入手方法、広告の宣伝文句などで使われる心理学的なトリックなどです。そして、正確な情報である人を対象とした臨床試験で有効性が証明された医薬品であっても、効果のある人とない人がいる“医療の不確実性”についても紹介しました。
 では果たして、正確な情報を入手さえすれば、決断・行動の意思決定は悩むことなく簡単にできるのでしょうか? 

○「科学的根拠に基づいた医療(Evidence-based medicine:EBM)」とは

「病気の治療方針を決める」といった場面を例に考えてみます。
 医療現場における意思決定プロセスのモデルの1つとして「科学的根拠に基づいた医療(Evidence-based medicine:EBM)」があります。EBMは「『科学的根拠』『患者の病状と周囲を取り巻く環境』『医療者の技術・経験を含む専門性』『患者の意向・行動』の4つの要素をバランスよく統合し、より良い患者ケアに向けた意思決定を行うための行動指針」と定義されています。ここでのポイントは、治療方針は薬の治療効果などを示す科学的根拠(=正確な情報)だけで決定されるものではないということです。例えば、下図のように治療法「A」と「B」を提示された場面を想像してみてください。

 どの人にとっても「病気が治る割合が高いことが重要」ということは前提としてあるものの、「治療費が気になる」「副作用は避けたい」「入院はしたくない」ということを重要視する人にとっては、必ずしも「病気が治る割合」だけで判断できない可能性があります。つまり、冒頭のクイズ「正確な情報を入手さえすれば意思決定は簡単にできる?」は「✕」ということになってきます。

○情報を見極めた後には,その情報とどう向き合うかが重要になる

 ヘルスリテラシーには健康情報を「入手」「理解」「評価」「活用」する4つのスキルが必要と、この連載では紹介してきました。これまで、“情報の見極め方”に焦点を当てて「入手」「理解」「評価」について解説してきましたが,「活用」については触れませんでした。今回、健康情報の「活用」、言い換えると“情報との向き合い方”は、“情報の見極め方”と同じぐらい重要なのだということを感じ取ってもらえたらと思います。さらに悩ましいのは、情報の見極め方には医学における共通の考え方がある一方で、情報との向き合い方には一人ひとりがもつ好み価値観が影響してきますので,十人十色・千差万別です。つまり,同じ情報を提供されても、決断・行動の意思決定は人によって異なってくることを意味しています。
 次回は、“情報との向き合い方”におけるコツやポイントについて詳しく解説したいと思います。

 

【関連書籍】
 

https://www.taishukan.co.jp/book/b521318.html


 

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