これからを生きる中高生に必要な性教育、考えてみませんか?
第4回 「包括的性教育」ご存じですか?②
重見大介(産婦人科専門医 日本医科大学非常勤講師)
みなさん、こんにちは。産婦人科医の重見大介です。
前回は、日本社会でセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス・ライツ(SRHR)がまだ十分に認知・提供されているとは言い難い状況であること、そしてSRHRを充実・向上させていくために重要となるのが「包括的性教育」である、ということをお話ししました。
今回は、この包括的性教育の概要と、国際的に広く指針とされているガイダンスについてわかりやすく紹介します。
包括的性教育とはどのようなもの?
「包括的性教育」(comprehensive sexuality education:CSE)とはどのようなものか、まずざっくり説明していきます。
包括的性教育は、国際的に広く認知・推進されているもので、「性に関する知識やスキルだけでなく、人権やジェンダー観、多様性、幸福について考え、学ぶ」ための重要な概念かつ手段であるとされています。
日本で多くの人がイメージする「性教育」は、「性に関する知識やスキル」として、妊娠・出産の仕組みや避妊、性感染症予防を教える(学ぶ)ことかもしれませんが、包括的性教育はこれとは大きく異なる(より包括的で、体系的な)概念なのです。
包括的性教育の国際的な指針やガイダンスとは?
包括的性教育には、きちんと国際的な指針・ガイダンスが存在しています。それが、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)が中心となって作成された「国際セクシュアリティ教育ガイダンス(International technical guidance on sexuality education)」であり、標準的指針として世界的に広く参照・利用されています(文献1)。2009年に初めて作成・公表され、その後2018年に改訂されて最新版となっており、日本語翻訳版も発行されています(文献2)。
本ガイダンスでは、主要なトピックを以下のように8つのキーコンセプトとしています。

このキーコンセプトを眺めると、「包括的」の意味が理解できるのではないでしょうか。そして、個々人の「人権」を軸とした構成になっていることが伝わってきます。
包括的性教育を若者に伝える上で重要なことは?
このような国際的な指針・ガイダンスがあることを紹介しましたが、「こういうことを各教職員が自由に好き勝手話せばいい」というわけではありません。センシティブなテーマを多く含みますし、聴く子どもたちへの影響を考えれば、実践する上での条件(前提理解)が重要となります。
本ガイダンスでは、10個の条件を明示しています(表1)。

早いうちからの性教育は「寝た子を起こす」といった意見や、「性に奔放になって危険だ」という指摘を耳にすることがあります。ところが、2016年に行われた研究報告では、適切なカリキュラムに基づく包括的性教育プログラムによって以下のような効果が得られると示されています(文献3)。
●初交年齢が遅くなる
●性交渉の頻度が減る
●性的パートナーの数が減る
●コンドームの使用が増える
●避妊具の使用が増える(本ガイダンスではコンドームは避妊具ではなく性感染症予防手段と扱われています)
以上から、前述のような意見や指摘はまったく科学的根拠に基づかない考え(思いつき)であり、適切な包括的性教育の提供を妨げるものではないと言えるのです。
なお、「年齢・成長に即していること」について、本ガイダンスでは対象年齢を「5~8歳」「9~12歳」「12~15歳」「15~18歳以上」の4つの年齢カテゴリーに区分し、それぞれのコンセプト・トピックにおいて提供する内容が調整されており、成長・発達段階に沿って自然に包括的性教育を学ぶことができるように工夫されています。
今回は「包括的性教育とはどのようなものか」「国際的な指針・ガイダンス」について解説しました。いかがだったでしょうか。
次回は、「包括的性教育」の内容をもう少し深掘りし、「性的同意」といった近年の日本でもより重要視されてきているキーワードについて詳しく触れていくことにしましょう。どうぞお楽しみに。
参考文献
1. United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization (UNESCO). International technical guidance on sexuality education: an evidence-informed approach. 2018. https://cdn.who.int/media/docs/default-source/reproductive-health/sexual-health/international-technical-guidance-on-sexuality-education.pdf?sfvrsn=10113efc_29&download=true
2. UNESCO. International technical guidance on sexuality education: an evidence-informed approach (jpn). 2020. https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000374167
3. Montgomery P, Knerr Wendy. Review of the Evidence on Sexuality Education. Report to inform the update of the UNESCO International Technical Guidance on Sexuality Education. UNESUCO, 2016. https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000264649
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