みなさん、こんにちは。産婦人科医の重見大介です。

前回は、包括的性教育の概要と、国際的に広く指針とされているガイダンスについてお話ししました。ガイダンスでは8つのキーコンセプトや10個の条件が明記されており、どのようなことをどのように伝えることが重要なのかイメージしていただけたのではないでしょうか。

今回は、包括的性教育の内容をもう少し深掘りし、「性的同意」「デートDV」といった近年の日本でもより重要視されてきているキーワードについて詳しく触れていきます。

中高生でも知っておくべき「性的同意」

文部科学省が推進する「生命（いのち）の安全教育」では、子どもたちを性暴力の加害者・被害者・傍観者にしないことが大きな目的とされています（文献1）。

性的同意って何？

教室の中でも、
「相手が嫌がっていなければいい」
「付き合っているなら断れないのでは」
といった誤解を耳にすることがあります。こうした認識が、望まない性的接触やデートDV、性的画像のやりとりなどの問題につながります。

性的同意を学ぶことは、他者の体と心の境界線を尊重し合う力を育てることです。性のトラブルを防ぐだけでなく、人間関係全般の土台づくりとしても必要不可欠なものになります。

性的同意は、単に「NO（嫌）と言われなかったからOK」という話ではありません。生徒に伝える際には、次のようなポイントを押さえるとよいでしょう。

沈黙や硬直、笑ってごまかす、といった状態・反応は、しばしば「嫌だけど、言えない」サインです。アルコールや薬物、強い恐怖心、相手とのパワーバランス（教員と生徒、先輩と後輩、上司と部下など）がある場合、そもそも自由な同意が成り立ちにくいことも重要なポイントです。

誰にとっても必要なスキル

性的同意を学び、他者の体と心の境界線を尊重し合う力は女子生徒だけが身につければよいものではありません。

・行為を「迫る側」になりやすい男子生徒
・性的少数者を含む、すべての生徒

にとって、「相手の境界線を尊重できること」は、将来どのような関係性を結ぶにしても欠かせないスキルです。

2023年の刑法改正と「不同意性交等罪」のポイント

2023年7月、性犯罪に関する刑法の規定が大きく改正され、「強制性交等罪」は「不同意性交等罪」に名称が変わりました。

改正の大きな特徴

• 犯罪の中心的な要件として、「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」にある被害者に対して行われた性交等を処罰対象としたこと
• その「困難な状態」を引き起こす要因として、暴行・脅迫だけでなく、「アルコール」「薬物」「恐怖やフリーズ」「虐待」「立場による影響力」なども列挙されたこと
• 性行為の同意年齢が13歳から16歳に引き上げられたこと

中高生向けには細かな条文ではなく、次のようなメッセージに整理すると伝わりやすくなるでしょう。

授業などで取り上げる際は、具体的な事件の細部には踏み込まず、法律が「同意のない性行為を決して許さない」と明確にしたことを伝える視点が大切かと思います。

学生の間でも起きている「デートDV」

「デートDV」とは、交際相手から振るわれるあらゆる暴力のことです。
殴る・蹴るといった身体的暴力だけでなく、精神的・経済的・性的な暴力も含みます（文献2）。

内閣府などの調査では、中学生・高校生・大学生で交際経験がある人のうち、約3人に1人が何らかのデートDV被害を経験しているとの報告もあります。
ポイントは、「付き合っているからこそ起きやすい暴力」だということです。生徒たちは「愛情表現」や「やきもち」と暴力の境界線をうまく言語化できていないことが多く、「これっておかしいのかな？」と思った時には、すでに不健全な関係性から抜け出しづらくなっていることもあります。

授業や面談などでは、

といった「健全な関係性」の基準を、具体例を交えて共有することをぜひ意識していただけると幸いです。

今回は「性的同意」「不同意性交等罪」「デートDV」について解説しました。
いかがだったでしょうか。最近では、学生間でリベンジポルノや性的画像の撮影が問題となるケースも頻繁に耳にします。こうした問題を減らすためには、性的同意といった根本的な価値観をしっかり身につけておく必要があるでしょう。これは、社会人になってからの加害・被害を防ぐためにも不可欠です。

次回は、私自身が中学・高校で性教育講演をさせていただいた際の話をします。産婦人科医の視点でどのような内容に触れ、生徒や保護者の方々からどのような感想をいただいたかなどをご紹介します。どうぞお楽しみに。

参考文献
1)文部科学省. 大切な心と体を守るために（教育教材）
https://www.mext.go.jp/content/20210416-mxt_kyousei02-000014005_34.pdf
2)    内閣府. デートDVって?
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/date_dv/pdf/print.pdf