物事を科学的に比較するために大切なこと
郡山さくら、澤田 亨(早稲田大学)
- 2021.04.22

エビデンスとは
エビデンス(evidence)という言葉が近年話題になっています。さまざまな場面で用いられる言葉ですが、ここでいうエビデンスとは、現在の科学界のルールに基づいたエビデンス(科学的根拠)ということです。みなさんの当たり前だと思い込んでいる情報は、「信頼できる」エビデンスに基づいているでしょうか? 偉い人や有名な人から発信される科学情報については鵜呑みにしがちな人が多いかと思います。
しかし重要なのは、その情報について「ちゃんと科学的な研究が実施されているか?」ということです。具体的な研究に基づいていない情報は、信頼性の高い情報らしく紹介されていたり、読者が期待するような強烈な一部分だけを切り取って発信されている可能性があります。ですから、科学情報に関しては具体的な研究に基づいているかを確認し、具体的な研究が実施された証拠(学術論文)が見つからない場合は、参考情報として聞いておくことが大切です。
公平な比較、科学的な比較
現在、コロナウイルス感染症に対して「疫学調査」が多く行われています。疫学は「科学的な比較」によって因果関係を解明し、未知の病からヒト集団を救ってきた学問です。簡単に言うと、(病を防ぐためには)「どっちがいいんだ?問題」を解決します。
しかし、比較さえしていればすべての結果を信頼して良い訳ではありません。例えば、異なる集団(ミカンとリンゴ)を比較しては意味がありません。当たり前だと思うかもしれませんが、このような情報は世の中に多く存在します。ヒトを対象に実施された研究には、遺伝子や生活環境の違いなど多くの違いがあり、環境をコントロールできる実験室で行われる研究を除くと信頼できるエビデンスづくりが困難になります。そのため、比較する2つの集団を同じ条件にして、集団の比較可能性(ちゃんとミカンとミカンを比較しているか)を保証することが重要になります。
ランダム化がもたらす公平な比較
比較可能性を保証するためには、「ランダム化比較試験」をする必要があります。ランダム化比較試験では、研究の対象者を2つの集団にランダム(無作為)に分類して比較します。集団をランダムに分類すると、2つの集団の人数・身長・体重・血圧値・血糖値といった身体的特徴だけでなく、飲酒量や喫煙量などの生活習慣の平均値や標準偏差(測定値のばらつきの程度)は、ほぼ同じになります。これが、ランダム化比較試験が最も信頼性の高い研究結果(エビデンス)を導き出す理由です。ランダム化することにより検証したい方法以外の要因がバランスよく分かれるため、公平に比較することができます(つまりミカンとミカンの比較ができます)。
しかし、参加者の希望を聞いて分類したり、研究の都合で分類した場合には、2つの集団のバランスが崩れ、ミカンとリンゴになってしまい公平な比較(科学的な比較)ができなくなってしまいます。
因果関係に影響を与える別の要因を考慮することの重要性
ここでは「コーヒーの摂取」と「心筋梗塞」の関連をみる研究を例として考えてみます。例えば、調査の結果、コーヒーを摂取していた集団は、摂取していない集団よりも心筋梗塞の発生が多くみられたとします。これは、一見コーヒーの摂取と心筋梗塞が関連しているように見えますが、実際はコーヒーを摂取している人に喫煙者が多かったために心筋梗塞の発生が多いという結果になっているかも知れません。
疫学は、病気にかかる因果関係(Aという原因の結果Bという病気になる)を解明します。その際、全く別の要因(この場合は「喫煙」)がA(コーヒーの摂取)とB(心筋梗塞)の因果関係に影響を及ぼす場合、このような要因を「交絡因子(こうらくいんし)」と呼び、疫学はこの要因をコントロールします。
このような交絡因子(「喫煙」)は、データを解析する時点でコントロール(調整)する必要があります。交絡因子が不明な場合や、複数の交絡因子が複雑に影響していることもあるため、疫学では常に交絡因子を考慮して研究を行いますが、疫学に限らず日常でも、ある因子と結果を結び付けて歪曲した因果関係が推測されることがあります。こういったときは、何か交絡因子が影響しているのではないかと一度考えてみることが必要です。
まとめ
本記事では、物事を科学的に比較するために大切なことは何なのか、を解説させていただきました。情報の飽和する現代社会で、何が信頼できる情報か、何が信頼できない情報かを的確に判別できる能力はとても重要なものだと思います。本記事が皆様のお役に立てば幸いです。
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