スポーツ

フェアな代表選手選考とは?
松本泰介(早稲田大学スポーツ科学学術院准教授・弁護士)

 新型コロナウィルスの感染拡大によって、2020年に開催されるはずだった東京オリンピックパラリンピックは2021年に延期されました。既に延期決定から1年以上経過していますが、日本では新型コロナウィルス変異株の感染が拡大し、東京オリンピックパラリンピックが開催されるかは不透明な状況です。一方で、最近ニュースで報道されているとおり、予定された開催時期に向けて、日本では東京オリンピックパラリンピックに出場するアスリートが続々と「内定」していっています。

なぜ「内定」?

 では、これはなぜ「内定」であって、決定ではないのでしょうか。実際、日本で「内定」されたアスリートがオリンピックパラリンピックに出場できないことはほぼありません(昨今では、「内定」後に何らかの不祥事が発覚したアスリートがオリンピックパラリンピックに出場できない場合があるかもしれません)。
世間にはあまり公表されていませんが、実は、オリンピックパラリンピックに参加するアスリートを決定する手続きはかなり詳細に決められています。アスリートが選考対象大会で勝ったというのは、単に成績結果が出たに過ぎず、未だオリンピックパラリンピックに参加できる選手が決まったわけではありません。このような代表選手選考手続きは、代表選手選考制度として、国際オリンピック委員会(IOC)や国際パラリンピック委員会(IPC)が定めています。したがって、国内中央競技団体(NF)や国内オリンピック委員会パラリンピック委員会(日本では、日本オリンピック委員会(JOC)や日本パラリンピック委員会(JPC))は、このような代表選手選考制度にしたがって、代表選手選考を行っているのです。

代表選手選考のトラブル?

 オリンピックパラリンピックは、出場するアスリートにとって最高の舞台です。この舞台に選ばれることになったアスリートは多くの名誉や称賛を得ますが、一方で、選ばれなかったアスリートはこのような名誉や称賛を得られません。皆さんはオリンピックパラリンピックに選ばれたアスリートの顔は浮かぶかもしれませんが、その陰で選ばれなかったアスリートの顔を思い浮かべることはできないのではないでしょうか。このように代表選手選考は選考対象となるアスリートにとって天地の差を生む残酷なイベントです。
そして、代表選手選考は、単に国際大会などに出場するかしないかだけでなく、アスリートのそれまでの努力に対する1つの結果であり、また、1つの結果はアスリートのその後の人生に多大な影響を及ぼします。アスリートを支えてきたコーチや家族などにも大きな影響があります。それゆえ、このような代表選手選考は、スポーツの商業化が起こる以前から、大きな利害対立を生んできました。日本の過去の報道を見れば、100年近く昔から、オリンピックの代表選手選考をめぐるトラブルが報道されています。

フェアな代表選手選考とは?

 現代では、このような利害対立が、スポーツ仲裁という場で表面化しています。選ばれなかったアスリートが国内中央競技団体(NF)や国内オリンピック委員会パラリンピック委員会を相手に申し立てるスポーツ仲裁という紛争解決制度があるのです。スポーツ仲裁の詳細については拙書(▶こちら)をご参照いただければと存じますが、このような制度によって、代表選手選考が裁かれ、行われた代表選手選考の課題が浮き彫りになっています。そして、海外の代表選手選考制度は、このようなスポーツ仲裁の結果を踏まえ、国内中央競技団体(NF)や国内オリンピック委員会パラリンピック委員会が自ら行う代表選手選考をさらにブラッシュアップし、全てのアスリートにとってフェアな代表選手選考制度が形成されていっています。
 各国の代表選手選考、スポーツ仲裁は、それぞれがオリジナルであり、お国柄も出ますので、それぞれの本質を楽しんでいただけたらと思います。

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