文武両道は成り立つ②
アクティブ・レッスン・プログラムの例
神戸大学大学院人間発達環境学研究科 助教 喜屋武享
- 2021.05.12
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アクティブ・レッスン・プログラムとは、学校の教科学習中に10分程度の学習を伴う運動を行うプログラムのことをさします。運動にその教科の学習内容を組み込むことが特徴です。授業中に「立ち上がって背伸びをしましょう」などと小休憩をはさむことがしばしばありますが、それとは異なります。日本ではプログラムとして系統的に実践している事例は見られませんが、諸外国では既にプログラム化され、効果検証した成果が学術論文として複数報告されています。本稿では、諸外国で実践されているアクティブ・レッスン・プログラムの例をいくつか紹介します。
まず、算数(数学)です。算数(数学)は、アクティブ・レッスン・プログラムを実践する上で理想的な教科であると推奨されています1。最も単純なプログラムとして、計算問題の回答を運動で表現する活動があります。足し算や引き算など四則計算の答えをジャンプの回数で答えるような運動です。具体的には、百の位、十の位、一の位とそれぞれ異なる運動を設定しておいて、位ごとに決められた運動の回数で回答を表現するものです(図1)。位が大きい数や小数にも応用ができます。この他、時刻を身体で表したり、教室から図書館や体育館など特定の場所までの歩数を数えてグラフ化したりするプログラムもあります。歩数と身長との関係を作図することにより比例関係を体験的に学ぶといった応用的な学習も実践されています。
英単語の学習では、椅子に置かれた単語カードから意味がペアになるカードを素早く見つけ、そのスピードを競うプログラムがあります(図2)。準備として5、6脚の椅子を円形に並べて、1枚ずつ英単語カードを置いておきます。カードには、upとdown、northとsouthなど単語の意味がペアになる正解カードを1セットだけ含めます。1グループの人数が椅子の数と同じになるように、子どもたちをいくつかのグループかに分けてプログラムを開始します。音楽のスタートに合わせて椅子の周りを歩いたり走ったりしながら、カードに書かれた単語を確認します。音楽がストップした瞬間に、正解カードのすぐ側にいる人がカードを挙げて回答を確認するというものです。カードを“クイズ”と“答え”のペアにして1問1答学習として実施することもできます。このほか、アルファベットが無作為に並んだマットの上で、出題者が読み上げる順番通りにジャンプする活動や、お題として与えられた英単語のスペルを1人1つずつ加えていくスペリングリレーというゲームを応用した活動もあります。
社会科(地理)は、都道府県や国名、方角を学習するプログラムについて紹介します。準備として教室の壁に方角を掲示しておきます。出題者(教員)が読み上げる都道府県や国名がどの方角にあるのかを、掲示された方角に向かって歩いたり走ったりして移動することで回答するプログラムです。この他、ジェスチャーゲームの要素を組み込んだプログラムでは、お題を出す出題者と回答者をあらかじめ決めておき、出題者がお題となる地域に関係する人や物などをジェスチャーで表すことで、回答者の答えを引き出すといったプログラムもあります。例えば、「オーストラリア」を答えとする場合、出題者はコアラやカンガルーの真似をして回答を引き出します。出題者のジェスチャーを、その土地の特産物や文化・芸能等の特定のジャンルのみに限定するなどルールを加えることで、より思考力が求められるプログラムへと発展させることも可能です。
理科(生物)の学習では、社会科のジェスチャーゲームを応用したものが考案されています。例えば、「水循環」を正答とする場合、子どもたちは水の蒸発・降水・土壌への浸透など理科の科学的な概念を記憶し、表現することが求められます。この他にも、安静時と運動時の脈拍を測り記録したりグラフに表したりする活動があります。脈拍が運動の強度により上がることや、年齢によって異なること、日頃の運動実施状況により個人差があることなど、学びを深める学習にも展開できます。
ここで例としてあげたプログラムは、それぞれの教科に特化したものというわけではなく、応用の効くものが多くあります。あらかじめ答えを表す運動を設定するというコンセプトは、出題内容によってはどの教科にも適用できます。英単語の学習例であげたプログラムは、他の教科で学習するキーワードをペアとして準備することで、英単語以外の学習に応用ができます。
ここまで紹介した例は主に教員がリードして実践するものですが、最近ではアクティブ・レッスン・プログラムのコンセプトをベースにしながら、ICT教材として広く展開されているパターンもあります。具体例としては、ICT教材の登場人物に合わせて歌を歌いながらダンスを踊るもの2や、登場人物が出題するお題に対して身体動作をすることで答える3構成になっています。歌とダンス、出題される問題の内容が教科学習と関連しているため、遊びやゲーム感覚で楽しみながら学べるものになっています。
このように、諸外国では“教科学習中の学習を伴う短時間の身体活動プログラム”をコンセプトとして、様々な教科でアクティブ・レッスン・プログラムが展開されており、バリエーションも豊富です。本稿で紹介したプログラムはほんの一例にすぎません。アクティブ・レッスン・プログラムが学術論文として初めて報告されたのは2006年4,5ですので、それから15年の月日が経っていることになります。筆者が、これまでに報告されているアクティブ・レッスン・プログラムの効果を検証した学術論文を網羅的に集めて確認したところ、アメリカ、イギリス、オランダ、オーストラリア、ニュージーランド、中国と複数の国の報告が見つかりましたが、日本では皆無であることがわかりました6。
次号(最終号)では、日本の子どもの身体活動事情に触れながら改めてアクティブ・レッスン・プログラムの必要性について考えたいと思います。
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