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挑戦を続ける指導者「②バスケット界に広めたいマインドセット」

動画や様々なデータを分析し緻密な戦術を練ることで,東京医療保健大学女子バスケットボール部を常勝チームに育て上げた恩塚亨先生が,2020年シーズンはその指導に新たな一面を加えました。
そのキーワードが「マインドセット」
大学バスケットボール界で成果を出し続ける,恩塚先生の取り組みをお届けします。

関連記事▶▶ 挑戦を続ける指導者「①選手と取り組むマインドセット」
 

挑戦を続ける指導者「②バスケット界に広めたいマインドセット」

 

 

「バスケットを通して,その人が幸せになれるよう力になりたい」

――チームでの取り組み(「①選手と取り組むマインドセット」)を踏まえ,「マインドセット」について発信をされていますが,一番伝えたいことは何ですか。

指導者が選手と一緒にわくわくしながら取り組むことの重要性です。
私自身,選手に対して「どうやってわくわくさせよう」「どうやって喜ばせよう」と考えながら指導しています。
「あれをやれ」「これをやれ」と指示するより,選手も喜んで自分から取り組むし,関係性も良くなる。
そして,そのほうが試合にも勝てると思っているからです。


――「わくわくさせよう」と考えている指導者は多くないと思いますが,どうしてそのような考えを持ったのですか。

私はこれまで「バスケットを通して,その人が幸せになれるよう力になりたい」と思って指導してきましたが,ある時「チームはインカレを4連覇したけど,選手は幸せになっているのだろうか?」と考えたんです。
高校の常勝チーム出身の選手にも「これまで勝ってきて幸せになった?」と聞いてみましたが,「え・・・。なってないです。」と。
その質問自体にも驚いていました。

「バスケを通して幸せになる」ことについて考えきれていなかったというのが正直なところですが,「勝つ=幸せ」ではないということに気づきました。
と同時に,「それなら,バスケットを通してどうしていきたいのだろうか」とも考えるようになりました。

 

――「バスケットをする意味」について考える中で,ヒントは見つかりましたか。

『7つの習慣』(キングベアー社)という本の中の「第2の習慣 終わりを思い描くことから始める」に,行動の軸として大きな影響を受けました。
『自分が死ぬときに何と言われたいか』を考えると自分の価値観が決まる」という内容です。
 
1回しかなく,いつ終わるかわからない人生。試合で勝っても負けても,一人ひとりが輝いていなければ意味がない
目的(終わり)はそこだと再認識したことで,取り組むべきことや見えてくる景色が変わってきたと思います。


 

「いま」を楽しめない人は将来も楽しめない

私自身,これまでは「何かを成し遂げるためには今の苦しさを我慢しなければならない」という価値観が強くありました。
でも,最近は「今を楽しめない人は将来も楽しめない。人生を良くしていくには,今を楽しむ力が必要だ」と思っています。
今この瞬間を楽しみ,わくわくした状態でいることによって,自分にとってプラスの情報を得ることができて,相乗効果で良い方向に向かっていけると思うんです。

たとえば,旅行に行くと決まったら,その日からそのことで頭がいっぱいになりますよね。
旅行に向けてわくわくしながら計画を立てたり準備をしたりするなんて,こんな楽しいことはない。

バスケットあるいは人生でも,わくわくしてそのことで頭がいっぱいになりながら取り組めば,より力を発揮でき,より良い結果につながると思います。

 

バスケット界に広めたい「マインドセット」

――現在のバスケット界をどう見ていますか。

「日本代表や候補の選手が,みんな自分の人生に自信を持っていて,わくわくしているか?」と考えると,必ずしもそうではないと感じます。
「バスケ界のトップオブトップでそうならば,下のカテゴリーの選手たちはどうなのだろう」と,高校生向けのクリニックをしていても感じることがありました。

だからこそ,自分のチームだけでなく,バスケット界全体にマインドセットの重要性を伝えたいと考えています。

自らの考え方や経験を積極的に発信している
(本人は向かって右から3人目)

 

――バスケット界を良くするために,意識していることはありますか。

根拠や期待感のない状況で「変わろう」「変えよう」とすることが難しいというのは,身をもって感じています。
だからこそ,自分がある考えに基づいて実際に取り組んでみて上手くいったことを共有して,「変わってよかった」「こっちのほうが結果が出ますよ」と伝えて,より多くの人にチャレンジしてもらいたいという思いがあります。


――最後に,チームづくりについて悩んだり,「変えたい」と思っている指導者の方に,ひと言お願いします。

最近,選手から「私,恩塚さんに自分からグータッチしに行くようになるとは思っていなかったです」と言われました。
たしかにそれまでは,体育館に行っても,挨拶してさーっと引いていく感じだったので(笑)
これは,「わくわくするチームづくり」の結果のほんの一例ですが,このエピソードを聞いて,「自分も変わろうかな」と思ってくださる人が出てくれば嬉しいです。

 

(2021年5月14日 オンライン取材,写真提供=ご本人,企画・編集=大修館書店編集部)

「わくわくすることが最大の原動力」を体現し,バスケットボール界に新しい風を吹かせようと取り組まれる恩塚先生の今後のご活躍にも注目です。
公開中の「挑戦を続ける指導者 ①選手と取り組むマインドセット」もぜひご一読ください!

 

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