これからを生きる中高生に必要な性教育、考えてみませんか?
第2回 産婦人科医として現場で感じる日々のモヤモヤ②
重見大介(産婦人科専門医 日本医科大学非常勤講師)

みなさん、こんにちは。産婦人科医の重見大介です。
前回は、診療現場で日々感じる「モヤモヤ」についてお話ししました。
今回は、私がオンライン相談(全国の自治体や企業、学校、医療機関などにサービスを導入いただくことで、地域住民や従業員、学生さんやかかりつけ患者さんが無料で産婦人科医へオンライン相談できる事業を運営しています)やSNS(私は主にX [旧:Twitter]を使うことが多く、現在4万5千人以上の方にフォローいただいています。私のXアカウントはこちら→https://x.com/Dashige1)を通じて接する、より水面下で交わされる声や、広がってしまっている誤解について取り上げます。
表にはあまり出てこないこれらの声は、当事者にとっては切実で、健康や人生に深刻な影響を及ぼしてしまうこともあります。
オンライン相談やSNSで見えてくる“本音”
産婦人科のオンライン相談やSNSでは、クリニックや病院での受診とは違い、匿名性や距離感がある分、率直な質問や抱え込んでいる不安、本音が寄せられたり飛び交ったりしやすいという特徴があります。
以下は、実際の相談内容やSNSでの投稿をもとに一部加工した事例です。
ケース1:月経が遅れており妊娠しているのか不安
例えば、10代の女性から「月経が遅れていて妊娠しているのか不安だ」と相談されることがあります。
ところが、よく話を聞いてみると、そもそも月経や排卵の仕組み、避妊法の選択肢、妊娠検査薬の使い方などをほとんど知らない女性が少なくありません。
オンライン相談では、こうした情報を提供しつつ、妊娠検査薬を適切なタイミングで使うことを勧めたりしますが、前提となる知識が不足しすぎており非常に危険だと感じることもあります。
ケース2:パートナーとの関係性に関する悩み
パートナーとの関係性について相談されることもあります。
結婚の有無にかかわらず、両者が対等な関係でない(多くの場合は男性が優位な立場にある)ために、例えば性行為を強要されても断れない、といった精神的・性的なつらさを背負っている女性たちもいます。
中高生でも同様のケースは散見され、「相手に嫌われたくない」という気持ちから、嫌なことでもなかなか断れず困っている人は少なくないように感じています。
ケース3:月経への誤解
SNSでは、特に男性による月経への誤解を見かけます。例えば、「性行為をしていなければ月経は来ないはずだ」「月経は月に1日だけだし、外出中は自分で出血を止めればよい」といったものです(これらはいずれも誤った知識です)。
きちんとした性教育や情報提供を受けていないと、大人になってもこのような誤解を持ったままになってしまう危険性があると実感します。
SNSに広がる“誤解”の構造
目には見えにくいですが、SNS特有の拡散構造が背景にあることは、我々大人も知っておかねばなりません。
●目を引く情報ほど拡散されやすい:正確さよりも「驚き」や「共感」を誘う情報が優先される。
●経験談が“真実”として受け取られる:個人の体験が一般化され、あたかも全員に当てはまるように誤解されやすい。
●匿名性がもたらす安心感と危うさ:本音を打ち明けやすい一方で、事実確認をせずに助言し合うことが常態化してしまう。
●「フィルターバブル」の怖さ:インターネットの検索エンジンやSNSなどのアルゴリズムが、ユーザーの過去の履歴や好き嫌いに基づいて情報を自動表示することで、自分と異なる意見や情報に触れる機会が減少して視野が狭まりやすくなる。
特に、性に関する情報は「恥ずかしい」「親や先生には聞けない」という心理的ハードルから、若い世代ではSNSが主な情報源になりやすく、その分、誤情報を信じてしまうリスクが高まっています。
浮かび上がる3つの課題
1. 情報の正確性フィルターの欠如
信頼できる情報源とそうでないものを見分ける力(メディアリテラシー)が不十分だと、ウェブ情報の海に溺れてしまう危険性が高まります。
2. 相談・受診タイミングの遅れ
誤情報を信じたまま時間が経過してしまうと、健康状態の悪化(性感染症や月経困難症など)や意図しない妊娠の可能性が高まってしまいます。
3. “普通”の基準がSNSに依存したものに
外見や経験についての価値観が、身近な人間関係よりもSNSの発信者に強く影響されてしまうことで、過剰な痩せを望んでしまったり、「男らしさ」を勘違いして女性を雑に扱ってしまったりすることにもつながるでしょう。
終わりに
オンライン相談やSNSで見えるのは、普段の生活ではなかなか聞けない“水面下の声”です。
それらに耳を傾け、寄り添い、適切に対処することが重要ですし、多くは正しい知識や信頼できる相談場所があれば避けられる不安やトラブルだと感じます。
そもそも相談しにくい上に、せっかく打ち明けてくれた不安や悩みに対して私たち大人が「そんなことも知らないの?」「なぜ隠していたんだ」「だから今の若い人は」「自分が悪いから自己責任だ」などと上から目線で威圧的に接してしまうと、コミュニケーションはさらに断絶し、余計に孤立化・悪化しかねません。
そうした上から目線の対応ではなく、なぜその誤解や不安が生まれるのかをできる限り理解し、信頼できる情報と安心して話せる場を提供することが、今・これからの性教育には欠かせないと私は考えています。
次回は、このような現代のさまざまな課題を踏まえ、中学・高校生に必要とされる包括的な性教育についてお話しします。

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