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オリンピック・パラリンピックの文化プログラムの歴史
後藤光将(明治大学)

 オリンピック・パラリンピックのスポーツ競技は,テレビ・新聞など色々な形で報道されますが,それと並行して「文化プログラム」が実施されていることをご存じでしょうか。

 今回は,その「文化プログラム」が、どのような経緯で行われるようになったのか,現在どのような内容で行われているのかを,スポーツ史がご専門の後藤先生に解説していただきます(編集部)。

 

オリンピックで行われた芸術競技

 近代オリンピックを復興したクーベルタンは,古代オリンピック(※1)にならって,スポーツだけでなく芸術競技も取り入れました。近代オリンピックの理念(オリンピズム)は,心身共に調和のとれた若者を育成することを目指しており,これにちなんでいます。

 このクーベルタンの構想が実現したのは,第1回大会からではなく,第5回目の1912年ストックホルム大会からでした。この大会で実施された芸術競技は,ミューズ(※2)の五種競技と呼ばれ,建築,彫刻,絵画,文学,音楽の5部門でした。ただし,全ての部門において,スポーツに関係した題材である必要がありました。受賞作品は,大会期間中に展示や上演がなされ,運動競技と同様に表彰もされました。

 ちなみにクーベルタン自身も,ストックホルム大会の芸術競技の文学部門にホーロット&エッシュバッハというペンネームで参加し,「スポーツ賛歌」という作品で金メダルを獲得しています。

※1 古代ギリシャの都市オリンピアで行われていた競技会。神に捧げる祭りの儀式(祭典競技)として,スポーツ競技のほかに芸術競技も行われていたという。

※2 ギリシャ神話で,文芸・音楽・学術などの知的活動をつかさどる女神(『明鏡国語事典』より)。

 

日本人画家のメダリスト

 近代オリンピックでの芸術競技は,1948年ロンドン大会までの全7大会4,000作品以上がエントリーされるほどの人気を集めました。

 1936年ベルリン大会の絵画部門では,日本人画家の藤田隆治(ふじた りゅうじ)が「アイス・ホッケー」という作品で,水彩画部門で鈴木朱雀(すずき すじゃく)が「古典的競馬」で,それぞれ銅メダルを獲得しました。また,板画家として世界的に有名な棟方志功(むなかた しこうは,この大会に出品しましたが落選しています。

 

芸術競技から芸術展示へ

 1949年,国際オリンピック委員会(IOC)は芸術競技の廃止を決定しました。その後,1952年ヘルシンキ大会から,芸術競技の後継として作品に優劣をつけない「芸術展示」が公式に実施されることになりました。芸術競技が廃止された主な理由は,芸術作品の評価や判定を含めた実施体制と資金問題,プロの芸術家が参加することによるアマチュア参加資格問題などでした。

 1964年東京大会でも芸術展示が実施されています。この時には,日本の古美術展が人気を集めました。

 

文化オリンピアードの展開

 さらに,1992年バルセロナ大会から,それまで開催年のみの実施であった文化プログラムを拡充して,「文化オリンピアード」として4年間にわたって展開することになりました。芸術に限らず,開催国の文化一般の紹介も含めて実施されるようになりました。オリンピアードとは4年周期のことで,古代オリンピックが4年周期で行われたことに由来しています。

 この長期のプログラムによって,オリンピック大会の機運を盛り上げる役割を果たしています。オリパラは,スポーツだけでなく文化と平和の祭典といわれる理由はここにあります。

 

東京2020大会の文化オリンピアード

 東京2020大会組織委員会では,2015年から文化・教育の有識者からなる文化・教育委員会を設け,文化プログラムのあり方と様々なモデル企画の検討を開始しました。様々な組織・団体による主体的な文化プログラムへの参画を後押しするため,2016年から「東京2020参画プログラム」として認証事業を開始しました。国内の様々な文化プログラムが,東京2020大会公認の文化オリンピアードとして実施されました。

 また,その集大成として,スポーツと共に平和な社会の実現に貢献することを目指し,2021年4月から9月にかけて大会の公式文化プログラムである「東京2020 NIPPONフェスティバル」が展開されました。「東北復興」「参加と交流」「共生社会の実現に向けて」というテーマを掲げ,プログラムが実施されました。これらのプログラムは,オンラインライブ配信も行われ,国内外の300万人以上が視聴しました。

 
参考文献
1) ・日本オリンピック・アカデミー編(2019)『JOAオリンピック小事典2020』メディアパル
・公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(2022)『東京2020文化オリンピアードレポート』(https://www.2020games.metro.tokyo.lg.jp/special/cul.pdf)

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