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体内時計は不思議でおもしろい
監修:石田直理雄(いしだ のりお) 時間生物学研究所・所長

 最近「体内時計」という言葉を普通に耳にするようになって来ました。みなさんの周りで「夜更かしのせいで,体内時計がずれた」なんて言っている人もいるかもしれません。

 今回は,体内時計の研究に長年取り組んでいらっしゃる石田直理雄先生にご監修いただき,体内時計の不思議さや面白さを紹介したいと思います。

 

体内時計の存在は古代から知られていた

 生物の体にはリズムがあるらしい,ということは大昔から知られていたようです。たとえば,古代ギリシアのヒッポクラテス(医学の祖と呼ばれる偉い人です)などが,人の出す熱にはリズムがあるみたいだ,という記述を残しています。

 それ以降にも,こうした事実に気づいた人はいたようですが,「面白い現象がある」という個別の観察の記録に留まっていました。しかし,近代の生物学の発展によって,体の中に本当に時計のようなものがあってリズムを刻んでいる,ということを科学的に検証できるようになって来たのです。

 現代では,タンパク質の部品からできている体内時計がヒトの体の中にあり,遺伝的な個人差があるものの,およそ24時間より少し長い周期で動いていることがわかっています。

 

時差ぼけは体内時計のズレ

 体内時計の存在を感じるわかりやすい例は,時差ぼけかも知れません。時差のある外国に旅行すると,私たちは持っている腕時計やスマホの時刻をずらします。でも体内時計はスマホの時計と違って簡単にずらせないので,ズレがそのままになってしまい,結果として,夜になっても眠れない,昼なのに眠くて我慢できない,ということが起こります。

 ちなみに時差ぼけは,慣れによって起こらなくなることはありません。だから国際線の飛行機の乗務員や海外遠征を頻繁にするアスリートたちは,とても苦労しているのです。また,夜勤などの交代勤務をする人達にも,時差ぼけと同じような現象が起こっていると考えられます。

 国土の広いアメリカでは,その東海岸と西海岸で3時間の時差があります。例えばロサンゼルス(西海岸)が午前8時でも,ボストン(東海岸)はまだ午前5時ということです。

 メジャーリーグの大谷選手のいるロサンゼルス・エンゼルスのスタジアムに,ボストン・レッドソックスが遠征して試合をするとき,レッドソックスの選手たちの体には時差による負担がかかります。たかが3時間と思われるかもしれませんが,メジャーリーグの勝敗の記録を調べ分析した人がいて,東西の遠征によって起こる時差ぼけの悪影響(上の例だとレッドソックスが不利)が統計的に見られたそうです。

 

朝型夜型には遺伝的な要因もある

 また私たちは,睡眠習慣の傾向を言い表すのに,朝型夜型という言葉を使ったりします。そうした傾向は,意識の高さや意志の強さだけの問題ではなくて,もともと遺伝的に決まっている(*注)部分も大きく,個人差があることがわかっています。つまり体質的に朝早く起きるのが得意な人もいれば,そうでない人もいるということです。

*注 体内時計の部品であるタンパク質の設計図であるDNAの配列が違うことが原因だと考えられています。

 学校生活では,決められた時間に登校する必要がありますし,受験や大事な試合を控えた生徒さんにとっても,とても気になる問題でしょう。体内時計のことをもう少し調べてみると日々の生活に役立つかもしれません。

 

腹時計は実際に存在する?

 「腹時計」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これはお腹の空き具合によって,その時刻をおおそよ予想することを時計に喩えて言います。『広辞苑』などの国語辞典にも掲載されている用語です。

 しかし,食事のタイミングに合わせて1日のリズムを刻む体内時計(腹時計)が,実際に体内に存在することが最新の遺伝子研究から解明されました。ですから単なる言葉遊びでなくではなく,実際に私たちには胃や肝臓に腹時計があるということになります。

 食事を毎日決まった時間にきちんととることが大切と言われるのも,食事がこの腹時計のリズムに影響するためです。特に朝食は,夕食からの間隔が空いているため,腹時計のリズムのスタートスイッチを入れるのに重要だと分かりました。

 毎日まちまちで好きな時間に食事をとることが,体に良くないと言われる理由も,ここから想像できるのではないでしょうか。ダイエットの基本も,実は体内時計をずらさないことが大事なのです。

 

まとめ

 このように体内時計については,たくさんの興味深い事実があり,私たちの生活にも大きな影響を及ぼしていることがわかります。体内時計の視点から生活習慣を見直してみると,新しい気づきや学びがあるかもしれません。

 
参考文献
・ラッセル・G・フォスター他著・石田直理雄訳『体内時計のミステリー』,大修館書店,2020年.
・石田直理雄・村上和雄「時計遺伝子に耳を傾けよ」『致知』106~109ページ,2016年11月号.
・「カフェインはヒトの体内時計を遅らせる」『ニュートン』 132ページ,2015年12月号.
 
関連書籍
(ラッセル・G・フォスター他著・石田直理雄訳 2020年)

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