ことば・日本語

悩める創作者のための 伝わる〈古文〉の書き方
第4回 動詞(3)活用タイプの識別 ――語ごとに辞書を引くわけにもいかないので――
田中草大

まずは理解度チェック

 次の[ ]の動詞を、《 》の指示に従って古文として活用させてください。

①文は[読む]ず。《未然形》            (手紙は読まない。)
 ②汝に[賭ける]命なり。《連体形》   (あなたに賭ける命だ。)
 ③[得る]ども満たされず。《已然形》(得るけれども満たされない。)
 ④[伸びる]、如意棒。《命令形》      (伸びろ、如意棒。)
 ⑤[死ぬ]ことなかれ。《連体形》      (死ぬな。)
 ⑥[食う]ば共にせん。《未然形》      (食うならば一緒に食べよう。)
 ⑦火の燃ゆるを[見る]。《終止形》   (火が燃えるのを見る。)
 ⑧月の下に[寝る]。《終止形》         (月の下に寝る。)
 ⑨雪の精よ、[出る]。《命令形》      (雪の精よ、出ろ。)
 ⑩彼の言葉を[信じる]ず。《未然形》(彼の言葉を信じない。)

模範解答はそれぞれ次のようになります。

①読ま(-ず) ②賭くる ③得(う)(-ども) ④伸びよ ⑤死ぬる 
 ⑥食は(-ば) ⑦見る ⑧寝(ぬ) ⑨出(い)でよ ⑩信ぜ(-ず)

いかがでしたか? 間違えてしまった方や、一応合っていたが自信がないという方は、以下の記事を熟読して動詞の活用タイプを識別する方法を習得しましょう。
 

なぜ識別が必要か

前々回・前回と、動詞の活用タイプについて学習してきました。二段活用、四段活用、一段活用、そして変格活用(サ行・カ行・ラ行・ナ行)の活用表に馴染みができていることと思います。
 しかしながら、実際に使う動詞がこれらのどの活用タイプに属しているかが分からなくては、いくら活用表を覚えていても使いようがありません
 例えば、〈尽きるけれど〉という表現を作りたいとして、〈~けれど〉は已然形+「ども」で作れるということまで分かっていても、「尽きる」の古文での活用タイプが何か分からなければ、その已然形を作ることができません。
 もちろん、辞書を引けば答えは書いてあります。例えば『デジタル大辞泉』で「尽きる」を引くと、「[文]つ・く[カ上二]」と書いてあり、古文での活用タイプはカ行上二段活用であることが分かります(よって、已然形は「尽くれ」であり、〈尽きるけれど〉に相当する古文は「尽くれども」となります)。文章を書くときにこまめに辞書を引くというのは大変良い習慣ですが、しかし動詞を書こうとするたびに辞書を引くというのはさすがに効率が悪すぎます。
 よって、ある動詞を見た時に、その動詞の活用タイプが何であるかを識別できなくてはならないのです。

識別の前に:暗記しておくべきもの

実は、古文動詞の活用タイプ9種のうち、そのほとんどは所属語がごく僅かです。次のリストをご覧ください。

上一段活用 …… 着る・似る・煮る・見る・射る・居(ゐ)[1]
※漢字からは気づきにくいですが「顧みる(=かへる+みる)」「試みる(=心+みる)」は「見る」を含み、「率ゐる(=ひく+ゐる)」「用ゐる(=もつ+ゐる)」は「居る」を含むので、これらも上一段活用です。
下一段活用 …… 蹴る
サ行変格活用……す[2]
 ※「○○す(例:執筆す)」「○○ず(例:案ず)」を含む。
カ行変格活用 …… 来(く)
ラ行変格活用 …… あり[3]
ナ行変格活用 …… 死ぬ[4]

頻用されるものに絞れば、活用タイプを六つも合わせても所属語は11語に限られます。しかも、変格活用の所属語はすでに大体覚えているでしょうから、それらを除けば7語! これらはもう、暗記してしまいましょう。それによって、識別の手続きを大きく簡略化することができます。
 

識別:対象は三つ

上で暗記すべきものとして挙げたものを除くと、残っている活用タイプは実は三つしかありません。すなわち、四段活用下二段活用上二段活用です。これらは所属語数が非常に多いので、暗記することは現実的ではありません[5]。そこでとうとう、識別ということが必要になってきます。
 識別の方法を理解するために、まずは動詞の活用タイプにおける古文と現代語との関係を把握しましょう。次の図は、第2回で掲げた図の一部[6]をより詳しくしたものです。

 上の図を右から左に眺めることで、次のことが分かります。

  [A] 現代語で五段活用である動詞は、古文では四段活用である(ただし、古文の下一段活用・ラ行変格活用・ナ行変格活用のいずれでもなければ)。
[B] 現代語で上一段活用である動詞は、古文では上二段活用である(ただし、古文の上一段活用でなければ)。
[C] 現代語で下一段活用である動詞は、古文では下二段活用である。

このように、現代語の活用タイプから古文での活用タイプが導けるのです。では、その現代語の活用タイプはどのように確認できるでしょうか。現代語は文字通り私たちが普段使っている日本語ですが、だからと言って「書く→四段活用」「見る→上一段活用」などと意識しているわけではありませんね。
 ここでは、打ち消しの形(=未然形)から活用タイプを確認する方法[7]を紹介します。次のとおりです。

現代語で打ち消しの「ない」を付けた時の形が……

[a] ア段音で終わる動詞は、五段活用である。  例:書く(←書ない)
  [b] イ段音で終わる動詞は、上一段活用である。 例:起きる(←起ない)
  [c] エ段音で終わる動詞は、下一段活用である。 例:受ける(←受ない)

 上記の[a][b][c]によって現代語の動詞の活用タイプが確認できれば、それを先述の[A][B][C]に適用することによって、古文ではどの活用タイプになるかが識別できるというわけです。

[注意!]

 この識別法によると、現代語で「~じる」となる動詞のうち、「~ない」とイ段音になるものは上一段活用であり、よって古文では上二段活用となるはずですが、実際にはサ行変格活用(つまり、語源的に「○○+"す"」)であるものが多く、上二段活用であるものはむしろ例外的[8]です

:応じる(→[古]応ず) 感じる(→[古]感ず) 信じる(→[古]信ず)
論じる(→[古]論ず) 重んじる(→[古]重んず) 書き損じる(→[古]書き損ず)

 

練習問題

では実際に識別する練習を、冒頭に掲げた問題を使ってやってみましょう。

問①:文は[読む]ず。《未然形》  (手紙は読まない。)

解答:文は読まず。
解説:現代語で「読む」に「ない」を付けると「読まない」となり、「ない」の前はア段音になります。ここから、「読む」は現代語で五段活用である=古文では四段活用であることが分かります。
 活用タイプが分かったので、活用表と照合すれば未然形が分かります。しかし活用表を見なくても、「四段活用は現代語とほぼ同じ」(前回参照)ということを覚えていれば、未然形は現代語と同じく「読ま」であると分かります。
 なお、なぜここで未然形が要求されているかというと、次に来る語(=助動詞「ず」)の接続が未然形だからです。

問②:汝に[賭ける]命なり。《連体形》  (あなたに賭ける命だ。)

解答:汝に賭くる命なり。
解説:現代語で「賭ける」に「ない」を付けると「賭けない」となり、「ない」の前はエ段音になります。ここから、「賭ける」は現代語で下一段活用である=古文では下二段活用であることが分かります。
 二段活用の連体形は「現代語の連体形(終止形と同じ)の「る」の前を、ウ段音に置き換える」ことで作れますから、「賭る」→「賭る」となります。
 なお、なぜここで連体形が要求されているかというと、次に来る語が名詞だからです。

問③:[得る]ども満たされず。《已然形》  (得るけれども満たされない。)

解答(う)ども満たされず。
解説:現代語で「得る」に「ない」を付けると「(え)ない」となり、「ない」の前はエ段音になります。ここから、「得る」は現代語で下一段活用である=古文では下二段活用であることが分かります。
 二段活用の已然形は「現代語の仮定形(「ば」が付くときの形)の「れ」の前を、ウ段音に置き換える」ことで作れますから、「(え)(-ば)」→「(う)れ」となります。
 なお、なぜここで已然形が要求されているかというと、「已然形+ども」で「~だが」という逆接の意味になるためです。

問④:[伸びる]、如意棒。《命令形》  (伸びろ、如意棒。)

解答伸びよ、如意棒。
解説:現代語で「伸びる」に「ない」を付けると「伸ない」となり、「ない」の前はイ段音になります。ここから、「伸びる」は現代語で上一段活用である=古文では上二段活用であることが分かります。
 二段活用の命令形は古めかしくするだけでOKで、「伸びろ」→「伸びよ」となります。

問⑤:[死ぬ]ことなかれ。《連体形》  (死ぬな。)

解答死ぬることなかれ。
解説:現代語で「死ぬ」に「ない」を付けると「死なない」となり、「ない」の前はア段音になります。ここから、「死ぬ」は現代語で五段活用である=古文では四段活用である……とはなりません! 古文の「死ぬ」はナ行変格活用として、例外的に覚えておかないといけないものでしたね。
 活用タイプが分かったので、活用表と照合すれば連体形が分かります。ナ行変格活用の連体形は「~ぬる」ですから、「死ぬる」となります。
 なお、なぜここで連体形が要求されているかというと、次に来る語が名詞だからです。

問⑥:[食う]ば共にせん。《未然形》  (食うならば一緒に食べよう。)

解答食はば共にせん。
解説:現代語で「食う」に「ない」を付けると「食わない」となり、「ない」の前はア段音になります。ここから、「食う」は現代語で五段活用である=古文では四段活用であることが分かります。
 活用タイプが分かったので、活用表と照合すれば未然形が分かります。しかし活用表を見なくても、「四段活用は現代語とほぼ同じ」(前回参照)ということを覚えていれば、未然形は現代語と同じく「食わ」であると分かります。ただし、歴史的仮名遣いでは「食は」となります[9]
 なお、なぜここで未然形が要求されているかというと、「未然形+ば」で「~ならば」という仮定の意味になるためです。

問⑦:火の燃ゆるを[見る]。《終止形》  (火が燃えるのを見る。)

解答:火の燃ゆるを見る
解説:現代語で「見る」に「ない」を付けると「(み)ない」となり、「ない」の前はイ段音になります。ここから、「見る」は現代語で上一段活用である=古文では上二段活用である……とはなりません! 古文の「見る」は上一段活用として、例外的に覚えておかないといけないものでしたね。
 活用タイプが分かったので、活用表と照合すれば連体形が分かります。と言っても上一段活用は現代語とほぼ同じ(命令形が古めかしいだけ)なので、終止形も現代語の「見る」のままでOKです。

問⑧:月の下に[寝る]。《終止形》  (月の下に寝る。)

解答:月の下に(ぬ)
解説:現代語で「寝る」に「ない」を付けると「(ね)ない」となり、「ない」の前はエ段音になります。ここから、「寝る」は現代語で下一段活用である=古文では下二段活用であることが分かります。
 二段活用の終止形は連体形から「る」を取った形なので、まず連体形を作ります。連体形は「現代語の連体形(終止形と同じ)の「る」の前を、ウ段音に置き換える」ことで作れますから、「(ね)る」→「(ぬ)る」となります。これから「る」を取った「(ぬ)」が終止形です。
 なお実際には、現代の古文では終止形「寝(ぬ)」はちょっと据わりが悪くて使いにくいと思います。その場合は類語語の「眠る」を使うなどによって対処してください。

問⑨:雪の精よ、[出る]。《命令形》  (雪の精よ、出ろ。)

解答:雪の精よ、(い)でよ
解説:現代語で「出る」に「ない」を付けると「(で)ない」となり、「ない」の前はエ段音になります。ここから、「出る」は現代語で下一段活用である=古文では下二段活用であることが分かります。
 二段活用の命令形は古めかしくするだけでOKで、「出ろ」→「出よ」となります。
 ただし、実は「出よ」は新しい形で、本来は「出(い)でよ」となります(終止形は「出(い)づ」。「日出づる国」の「出づ」です)。せっかくなのでこちらを使いましょう。

問⑩:彼の言葉を[信じる]ず。《未然形》  (彼の言葉を信じない。)

解答:彼の言葉を信ぜず。
解説:思わず「信じず」としたくなりますが、それは歴史的には新しい形です。現代の古文としてはそれでも特に差し支えないかとは思いますが、一応、文法的には以下のようになります。
 「信じる」は「ない」を付けると「信ない」となり「ない」の前がイ段音になるので、現代語で上一段活用である=古文では上二段活用である……とはならず、実際には「案じる」「動じる」「軽んじる」などと同じく、「名詞+サ変動詞"す"」という構造の語です(古文での終止形は「信ず」)。よって、未然形は「せ」になりますが、元が「信ず」のように濁音になっているので、未然形も濁音で「信(-ず)」となります。
 このように、元々はサ変動詞「す」であるのに現代語ではサ変ではなく他の活用タイプ(「信じる」の場合は上一段活用)になっている動詞が色々とあるのですが、これらを古典文法に則ってサ行変格活用させるか、それとも現代の形に合わせて活用させるかは、書きたい文章の性質に合わせて決めてください。基本的には、現代の活用タイプにしておいた方が意味が通じやすいとは言えるでしょう(例えば「愛さない」を古典文法に従って「愛せず」とすると、「愛することができない」の意味に誤解されかねません)。

 

【コラム①】古文と現代語とで活用タイプが食い違う動詞

この回では、現代語での活用タイプを手がかりにして古文動詞の活用タイプを識別する方法を学びました。どうして現代語の活用タイプを手がかりにできるかというと、古文から現代語にかけて規則的な通年変化(例:二段活用→一段活用)が起こっているためです。
 ところが何にでも例外はあるもので、こうした規則的変化とは別に個別の変化を起こした語というのもあります。例えば、「恨む」という動詞は現代語では五段活用ですが、古文では上二段活用をしていたことが知られています。よって未然形は「恨ま(-ず)」ではなく「恨み(-ず)」、連体形は「恨む(-時)」ではなく「恨むる(-時)」でした。また、練習問題で取り上げた「信じる」「愛する」なども変則的な変化をした例です。
 本コラムの趣旨からは外れますが、もし「なるべく古文本来の姿を真似て書いてみたい」という場合は、こまめに古語辞書を引いたり実際の古文をたくさん読んだりして、現代語の語感に惑わされないようにする努力が必要になってきます。

 

【コラム②】活用タイプと動詞の自他

古典文法では、「焼く」という一つの動詞が"焼く"という他動詞と"焼ける"という自動詞との両方で用いられます。この二つは、異なる活用タイプで活用します。

他動詞:四段活用  
  [未]焼か(-ず) [用]焼き(-て) [終]焼く(-。) [体]焼く(-時) [已]焼け(-ども) 
  [命]焼け(-。) 

 自動詞:下二段活用 
  [未]焼け(-ず)  [用]焼け(-て)  [終]焼く(-。) [体]焼くる(-時) [已]焼くれ(-ども) 
  [命]焼けよ(-。)

同様のペアを持つ動詞は、他にも「切る(他動詞:四段 / 自動詞:下二段)」「開(あ)く(他動詞:下二段 / 自動詞:四段)」「立つ(他動詞:下二段 / 自動詞:四段)」など色々あります。これらは、終止形においては自動詞か他動詞かの区別が付かないので、他動詞であれば目的語を明示するなどして、読者が誤解しないよう配慮が必要です。

 


[1] この他に「干(ひ)る」など数語がありますが、現代の古文においては使う機会は少ないでしょう。 [2] もう一つ「おはす」がありますが、現代の古文においては使う機会は少ないでしょう。 [3] この他に、使う機会は少ないかと思いますが「居(を)り」「侍(はべ)り」「いまそかり」があります。古文の授業で「あり・をり・はべり・いまそかり」と、調子を付けて覚えさせられた記憶がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。 [4] もう一つ「去(い)ぬ」がありますが、現代の古文においては使う機会は少ないでしょう。 [5] この3タイプの間でも語数には大きな差があり、上二段活用の所属語は他2つよりもかなり少ないことが知られています。例えば、『源氏物語』には四段活用の動詞が3,265語、下二段活用の動詞が1,570語あるのに対して、上二段活用の動詞は1桁少ない138語であることが報告されています(築島裕『平安時代語新論』457頁)。しかもこの語数は複合語を含んだものなので、これを除く(例えば「思ひ侘ぶ」「待ち侘ぶ」などを「侘ぶ」にまとめる)ともっと少なくなります。その方針により小学館『全文全訳古語辞典』を調査すると、上二段活用動詞は90数語となります。かつ、見たところその内で現代の古文で使えそうなのは40語程度に絞れそうです。……暗記を試みてもよいかもしれません。 [6]  サ行変格活用とカ行変格活用は、どちらも古文と現代語とで一対一対応しているため割愛しています。 [7] これとは別に命令形による識別方法もあります。次のようなものです。
 現代語での命令形が……   
 ・「ろ」が付かない動詞は、五段活用である。      例:書く(←書け)
 ・「ろ」の前がイ段音になる動詞は、上一段活用である。 例:起きる(←起ろ)
 ・「ろ」の前がエ段音になる動詞は、下一段活用である。 例:受ける(←受ろ)
 ただし、この方法には少し問題があります。現代語では命令表現に色々な形式があることです。例えば、「食べる」の命令表現として、西日本では「食べろ」のほかに「食べえ」「食べり」「食べれ」といった形式が見られます。よって、「ろ」(命令形の活用語尾)を基準にした方法は混乱を招くおそれがあります。そのため、ここでは未然形による方法を提案しています。
[8] 現代の古文で使われそうな範囲では、「怖じる(→怖づ)」「とじる[閉・綴](→とづ)」「恥じる(→恥づ)」くらいに限られます。 [9] イントロダクション」のコラム②で述べたように、歴史的仮名遣いでどういう表記になるかは基本的には辞書を引かないと分かりません。ただし、古文でワ行四段活用の語というのは存在しないので、活用語尾の「~わ」は例外なく「~は」に出来ます。


著者プロフィール

田中草大(たなか そうた)
京都大学大学院文学研究科准教授。専門は日本語の歴史。主な著書に、『平安時代における変体漢文の研究 』(勉誠出版、2019年)、『#卒論修論一口指南』 (文学通信、2022年)など。
X(旧Twitter): https://x.com/_sotanaka

一覧に戻る

最新記事

このサイトではCookieを使用しています。Cookieの使用に関する詳細は「 プライバシーポリシープライバシーポリシー」をご覧ください。

OK