国語教育

〈BOOK REVIEW〉 いま、高校生に読んでほしい本
髙田郁『星の教室』
内田 剛

髙田郁『星の教室』(角川春樹事務所、2025年)

髙田郁『星の教室』(角川春樹事務所、2025年)

夜間中学で知った本物の「学び」が、悩める私を救ってくれた。
「人は、なぜ学ばなければならないのか?」その答えがここにある。

 

「「学び」とは、誰にも奪われないものを、自分の中に蓄える、ということなのか。」(p.77)

 星空を見上げると背筋が伸び、想像力も無限に広がる。壮大な銀河から降り注ぐ光は、遥か彼方にありながらも眩しく輝く希望の象徴のようだ。今回、紹介する『星の教室』は、まさに明日を照らす羅針盤のような一冊である。

 物語の舞台は大阪の夜間学校。著者の髙田郁は、映像化でも大いに話題となった時代小説のベストセラーシリーズ『みをつくし料理帖』『あきない世傳 金と銀』で知られているが、本作は現代ものの傑作である。

 主人公の潤間さやかは、いじめが原因で中学の卒業証書をもらっておらず、親や学校への不信を抱えながら生きづらい毎日を過ごしていた。しかし、夜間中学の存在を知り20歳の春、覚悟を決めてその門をくぐる。

 人生の道に迷っていたのは自分だけではなかった。その学校には貧困、病気、戦争といった、様々な事情で義務教育を受けられなかった仲間たちがいた。先生や教科書からだけではない。年齢や性別、国籍など、境遇がまったく違う人たちから教わることも多い。

 全編から人肌の温もりが染みわたり、打ち震えながら読み進めた。そして「なぜ、人は学ばなければならないのか?」の答えが分かった。人と人とのつながりが、心をポジティブに変化させる。理不尽な事件が横行する「いま」の時代にこそ必要な物語だ。

 切実な社会の現状を知り、ようやく自分の居場所を見つけた彼女が、いったいどんな夢を見つけるのか。それが本作のいちばんの読みどころだろう。

 絶望は、ひとりでは乗り超えられない。人は誰かに寄り添い、助け合うことによって生きられ、弱さを受け入れて強くなれる。全編から湧きあがる尊いメッセージは、そのまま読者の血となり肉となるだろう。

 悩み多き青春のバイブルとなるのは、こうした本物の「学び」であった。物語の力を全身に浴びる読書体験ができる至福の一冊だ。

『国語教室』第124号より転載

著者プロフィール

ブックジャーナリスト。約30年の書店員勤務を経て、2020年よりフリーに。NPO本屋大賞実行委員会理事。

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