STEAM×スポーツで体育をイノベーションする(前編)
山羽教文

米国やアジアを中心にSTEM(Science、Technology、Engineering、and Mathematics)教育が注目を集めている。このSTEM教育にArts(アート)を加えたものが、STEAM教育である。
各国で導入が進む背景には、科学技術をベースとしたイノベーション人材の育成が必要不可欠という認識があり、わが国においても、STEAM教育を導入する動きが見られるようになってきた。STEAM教育に体育・スポーツが位置づくとすれば、それはおそらく、アートとして、ということになるだろう。
体育×算数、体育×プログラミング……。体育と他の何かを掛け合わせることで、体育・スポーツの新たな可能性を切り拓こうとしている人、それが山羽教文(やまは・たかふみ=株式会社 STEAM Sports Laboratory 代表取締役、1971年生)さんである。山羽さんが行っている取り組みの実際と、それにかける想いについてお話を伺った(聞き手:『体育科教育』編集部)。
●体育×算数・プログラミングの授業
──早速ですが、山羽さんが取り組まれている「STEAM教育×スポーツ」の実証事業ではどういったことを行っているのかをお教えください。
2018年度の経済産業省「未来の教室」の実証事業として、「タグラグビー×算数・プログラミング」(ワークショップ形式の実践と小学校での授業実践)と「陸上(速く走る)×STEAM」(ワークショップ形式の実践)を行いました。両者共通して、以下のプロセスでカリキュラムを組んでいます(表)。

実際にやってみる(問題認識)→動画やデータを使って原因を考える(原因分析)→算数や理科、プログラミングを使ってその対策を考える(対策立案)→考えたことをやってみる(トライ&エラー)→振り返り
強調したいのは、子どもたちのうまくなりたい、勝ちたい、速くなりたいというスポーツへのモチベーションを生かしながら、実際の活動の肝は「問題解決」だということです。このような経験を通して、問題解決スキルや目標設定スキルを向上させ、それがスポーツではない場面、つまり日常生活でも生かされるようになってほしいと考えています。
──算数やプログラミングはどのように取り入れられているのでしょうか?
タグラグビーの事例で紹介します。
最初の1時間目は導入です。基本的なタグラグビーの技能として「1対1」や「2対2」の抜き合いをしました。
2時間目の授業は、教室で、前時に行った抜き合いの様相を碁盤で疑似再現したタグラグビーボードゲーム(図)を行いました。

図に示したタグラグビーボードゲームのルールを読んでいただくとお気づきになるかと思いますが、ここで用いられているのは「算数思考」そのものです。ボードゲームで遊びながら、1対1の抜き合いに潜む「抜ける間合い」を探っていきます。
3時間目はボードゲームで気づいたことをもとに、再度抜き合いをやりました。「抜ける間合い」を知った子どもたちですが、それでうまくいくかというと、必ずしもそうはいきません。なぜならボードゲームで発見した「抜ける間合い」は、数理モデル(複雑な条件を排除し、できるだけ単純化したもの)上の話であって、現実とは異なることが多々あるからです。
例えば、ボードゲームでは一人一人の足の速さが同じという前提になっていますが、実際にそんなことはありえませんよね。ボードゲームと実際にプレーすることとは異なる点も多いのですが、この違いを認識することが、実は自己認識にもつながります。
──というと?
ボードゲームは、複雑な「変数」(上の例では「足の速さの違い」)を単純化(「足の速さは同じ」)したものです。だとすると、「ボードゲームではうまくいっても実際にはうまくいかない」という現象は、単純化した変数、すなわち個人やチームの能力や特徴、強みや弱みを理解することにつながり、その実際の条件下における対策を考えることにもつながるのです。
──その後の授業の様子について教えてください。
1対1で基礎が身についてきた3時間目の終盤に5対5のタグラグビーを行いました。人数が増えるので、課題も複雑になります。それをどう分析し、対策を立てるか。1対1ではアナログでもよかったのですが、人数が増えるとそうはいきません。そこでプログラミングの出番です。4・5時間目はパソコン教室で私たちが開発したプログラミングソフトを使って作戦のシミュレーションをし(写真)、いい作戦が見つかったら実際に試します。

しかし先にも話したように、必ずしもプログラミングと実際のプレーが同じようにいくわけではありません。ここでもトライ&エラーが繰り返さることになります。
──体育と算数・プログラミングの親和性の高さが窺える授業実践ですね。
私は、スポーツでは、フィジカルだけでなく頭も鍛えられると考えています。紹介したタグラグビーの授業では、子どもたちは本当によく頭を使いました。実際に子どもの感想文にも「頭を使った」といった記述が多くみられました。その要因は、まさしく体育と算数・プログラミングを掛け合わせたことによって、主体的に考える機会を与えられたからだと思っています。
(後編に続く)

詳しくはこちら
一覧に戻る