STEAM×スポーツで体育をイノベーションする(後編)

体育×算数、体育×プログラミング……。体育と他の何かを掛け合わせることで、体育・スポーツの新たな可能性を切り拓こうとしている人、それが山羽教文(やまは・たかふみ=株式会社 STEAM Sports Laboratory 代表取締役、1971年生)さんである。山羽さんが行っている取り組みの実際と、それにかける想いについてお話を伺った(聞き手:『体育科教育』編集部)。
──「タグラグビー×算数・プログラミング」の実践で、子どもたちのタグラグビー自体のパフォーマンスは向上しているのでしょうか。
結論からいえば向上したことが窺える結果がでています。学習前後の試合を動画分析して比較したところ、競技能力を示すと考えられる「攻撃継続数」「タグ取得数」が大幅に増加し、「スローフォワード」の反則数が減少しました。こうした試合様相の変化から、タグラグビーのパフォーマンスは向上したと言えるのではないかと考えています。他にも「ライフスキル」評価の「問題解決」の項目で統計上有意な向上が見られるなどの成果も出ています。
──運動やスポーツに苦手意識を持つ子どもはこの授業をどう受け止めていたのでしょうか?
担任の先生から「今まで体育が苦手だと感じていて消極的だった児童が活躍していた」というコメントをいただいているので、おそらく苦手な子どもでも参加しやすい授業になっていたのだと思います。ただそれが今回のカリキュラムに起因するものなのか、単に外部講師がやってきて行う授業だったからなのかといったことについては検証していく必要があります。また、あくまでも印象レベルですが、女子児童が算数やプログラミングを使って積極的に作戦を考えていたように感じました。
●○○×○○の掛け算がイノベーションを起こす
──山羽さんが子どものスポーツ事業をはじめたきっかけは何だったのでしょうか?
もともと自分がスポーツ(野球、ラグビー)を通して多くのことを学んできたので、スポーツを通した人間力の育成にかかわる仕事をしたいと思っていました。スポーツは勝った/負けたがフォーカスされやすいですが、もともとは「遊び」であり、プレーする人にとって楽しいものであるはず。スポーツを通して子どもたちに多くのことを学んでもらいたいと思い、当初はライフスキル教育の知見を生かしながら、少年スポーツクラブへの教育プログラムの提供などを行っていました。先に紹介したタグラグビーの授業で適用した「問題解決プロセス」はライフスキル教育からきています。
──そこからどうしてSTEAM教育の世界に?
私が提供する教育プログラムが他の教育手法と何が違うのかわかりづらいという指摘を受けました。また、ライフスキル教育は、文字通りライフスキルを高めることを目的にしているので成果が見えるまで時間がかかるということもネックになり、なかなか思ったように事業が進みませんでした。そんなとき、2、3年前になりますが、中島さち子(STEAM教育者、現(株)STEAM Sports Laboratory取締役)に出会いました。彼女は数学者でありジャズピアニストでもあるという強みを生かして、音楽×数学のワークショップを長年やっています。その話を聞いたとき、スポーツでも同じようなことができるのではないかと思ったのが、私がSTEAM教育に関わるようになったきっかけでした。
といってもSTEAM教育など当時はまったく知りませんでした。調べていくうちに、STEAM教育には私がライフスキル教育で大切にしていた「問題解決スキル」などの育成に通ずる部分が大いにあると感じ、STEAM教育に舵を切ることにしました。
──スポーツのなかでも「タグラグビー」を選ばれたのはなぜ?
異分野との掛け算に挑戦する以上、スポーツについては私が詳しい競技から始めるべきだろうということで、ラグビーをもとにしたタグラグビーから着手しました。算数については中島を中心とする数学者の方々と開発を進めました。一方、プログラミングについては、オセロを趣味にする物理学者(田中香津生先生)を紹介してもらいました。田中先生は以前よりプログラミングを使ったオセロのワークショップをやられており、それを拝見した時に、オセロの駒をタグラグビーのディフェンス・オフェンス5人に見立ててゲームシミュレーションができないだろうか?と思い、彼に相談しました。すると彼は、「つくれそうですね」と。そこからすぐにデモ版をつくってもらって修正を加えていき、今の原型になるプログラミングソフトができました。
──最後に、今後の事業の発展方向についてお教えください。
今年度に静岡県の小学校で、体育授業への導入を視野に入れて、再度タグラグビーの実証事業を行う予定です。タグラグビー用のプログラミングソフトは改良を重ねており、より子どもたちが使いやすいものになってきています。今後は、私たちが訪問する学校に限らず、多くの学校現場で使ってもらえるようにパッケージ化して広く提供していきたいと考えています。また、今年度は、中・高校の部活動(バスケ・野球)向けのSTEAM教材の開発にも取り組んでおり、こちらも成果が見えてきたところで情報発信をしていきたいと思っています。

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