〈BOOK REVIEW〉 いま、高校生に読んでほしい本
野口聡一『宇宙飛行士 野口聡一の全仕事術』
内田 剛
- 2022.04.08

野口聡一『宇宙飛行士 野口聡一の全仕事術』(世界文化社、2021年)
「究極のテレワーク」である豊富な宇宙体験から伝わる説得力!
新たな時代を乗り切るコミュニケーションのヒントがここにある。
「人類の未来は孤立から生まれるのではなく、つながりから始まる。」(p.237)
今や誰もが宇宙に行ける時代となった。科学技術の進歩と先人たちのたゆまぬ努力によって手の届かなかった夢が現実のものになったのだ。そんな身近になった夢の象徴が民間宇宙船に乗った日本人初の宇宙飛行士・野口聡一だろう。
映画化もされた人気コミック『宇宙兄弟』のモデルとしても知られ、三度の宇宙飛行経験がギネス記録にも認定。人とのつながりを重視し、約10万人のチャンネル登録者を持つ宇宙のユーチューバーとして情報を発信し続けている。50歳を超えてもなお諦めることなく挑戦し続けるプロフェッショナルな生き様は僕たちに大きな勇気を与えてくれる。
地球から400Km離れた宇宙とのオンラインによる交信はまさに「全員が生き抜く」という分刻みの命懸けのミッションであり、究極のテレワークでもある。タイトルに「仕事術」とあるようにリーダーの素養や問題解決手法のポイントなどが語られ、新たな時代のビジネス書として有益なだけでなく、グローバル化社会を生きていく高校生に向けたコミュニケーションのテキストとしても最適だ。
国籍も言葉も価値観もまったく異なるメンバーをいかに「ワン・チーム」にまとめればいいのか。完璧を求めないこと。食事や笑いの要素も大切で、困難な場面ではいったんリセットすること。「言わなくても分かる」は通用しないこと。まさに異文化交流が日常となった今だからこそ読んでおきたいヒントが満載である。違う視点があるからこそ新たな気づきがあり、改善のきっかけが生まれるのだ。
世界的な宇宙飛行士・野口聡一の夢を育んだのは立花隆『宇宙からの帰還』という一冊の本だった。そしてとかく孤立しがちな宇宙空間のなかで自分の心を保つ力となったのは岡倉天心『茶の本』や世阿弥『風姿花伝』といった読み継がれる古典的名著であった。彼の集大成ともいうべき本書もまた多くの「学び」がある。揺るがぬ北極星のようにこの国の若者たちの大きな希望となって明日を照らし続けることだろう。
『国語教室』第117号より転載
筆者プロフィール
ブックジャーナリスト。約30年の書店員勤務を経て、2020年よりフリーに。NPO本屋大賞実行委員会理事。
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