国語教育

〈BOOK REVIEW〉 いま、高校生に読んでほしい本
あさのあつこ『アーセナルにおいでよ』
内田 剛

あさのあつこ『アーセナルにおいでよ』(水鈴社、2024年)

あさのあつこ『アーセナルにおいでよ』(水鈴社、2024年)

若い力の成長の日々は、悩みが大きいほど清々しい光が注ぎこむ。
起業を通じて未来を切り開くこの一冊は揺るがぬ人生の糧だ!
 

「考えて、ずっと考えて、ないなら創ればいいって閃いたんだ」(p.58)

 『バッテリー』など数々の名作を世に送り続け、世代を超えて愛されている作家・あさのあつこ。その長編新作のテーマは、ズバリ「起業」だ。

 物語の主人公は4人の若者たち。それぞれネットの中傷、不登校、詐欺などで世間に馴染めずドロップアウトを経験。まさに重たい十字架を背負った迷える子羊たちである。そんな彼らが目指したのは企業のスタートアップ。他人の悩みを聞き入れながら、自分たちも少しずつ変化を遂げていく過程がなんとも清々しい。

 混沌とした時代の中で、どのようにすれば社会の荒波に立ち向かえるのか。この物語は他人事ではない。「アーセナル」とは「武器庫」という意味。読めばきっと、文字通り、自分だけに相応しい闘うための「武器」を授かるはずだ。

 希望や夢に満ちた未知なる世界。そこには厳しい社会や甘くない現実が立ちはだかっている。本書のいい点は、世の中は決して綺麗ごとばかりではない、悪意を持って近づく人間たちもいる、という事実に気づかせてくれることだ。

 生きることは難しい。高い壁にぶつかったり、曲がりくねった道に迷ったり、深い沼に足をとられることもある。そんな窮地を抜け出すために必要なのは、自分とは違った個性を持った「仲間」、そしてピンチをチャンスに変える「知恵」、さらには逆境でこそ力を発揮できる「自分自身」なのだ。

 生きるための武器は自分自身で探すだけではない。身近な誰かが見つけてくれることもある。本書に描かれた4人もそれぞれに長所を理解し、短所を補い合って成長し続ける。他人を真剣に見つめることは己自身を見なおすことでもある。

 目標が見つかったら、成功に向けて、とことん悩み考え抜いて、最後まで諦めないこと。そこからはじめて希望の光が射しこんでくる。本書は新たな道を切り開く問題提起の作品であり、未来を切り開く糧となる実践的な一冊だ。たくさんの若者たちに読まれるべき新たな青春のバイブルなのである。

『国語教室』第122号より転載

著者プロフィール

ブックジャーナリスト。約30年の書店員勤務を経て、2020年よりフリーに。NPO本屋大賞実行委員会理事。

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