教室が活発になる授業のアイディア②
合唱コンクールの課題曲を分析し、物語を創作する~「時の旅人」(深田じゅんこ 作詞/橋本祥路 作曲)
麗澤中学・高等学校 秋元誠道
- 2019.11.25

はじめに
実社会・実生活に生きて働く力の育成が求められる国語。
学校行事などとの連携も今後ますます重要になってくるでしょう。
今回は、合唱コンクールの課題曲を分析する活動を紹介します。歌詞の分析を通して、生徒たちは課題曲とどのように向き合ったのでしょうか。
1.授業実施の背景
授業での学びと生徒の学校生活をどのようにしたら結び付けることができるか。私はこの問いを持って2017年度に早稲田大学大学院教育学研究科で研究実習を行いました。この実習では、世田谷区の公立中学校で教科「日本語」を2か月にわたって担当させていただきました。この教科 「日本語」は、世田谷区が独自に設定している特設の教科です。授業では、学校行事の合唱コンクールにおいて、中学2年生の課題曲となっている「時の旅人」の歌詞の分析と物語の創作を行いました。生徒たちの関心事である合唱コンクールの課題曲の歌詞を深く読み込み、 生徒一人ひとりと結び付けることで、授業と行事の双方に良い影響があることを期待して、この単元を計画しました。研究実習、世田谷区の特設科目、教科書にない教材と、日常の授業とは異なることばかりですが、何かの参考になればと思い、ここにご報告いたします。
2.歌詞の分析(2時間扱い)
この授業では主に、「時の旅人」の構成に注目し、各連において時間がどのように移り変わっていくかを議論しました。歌詞の構造と時間の移り変わりについては、生徒に配布された楽譜と先行研究を参考にしましたが、あくまでも生徒たちの議論の結果を重視しました。授業の進め方としては、個人で思考してワークシートに記入し、グループで共有した後、クラス全体で議論するという形式をとりました。クラス全体での議論の際に、生徒から出た意見はなんでも良しとしたわけではありませんが、根拠と論理性がしっかりしていたものはクラスで受け入れられていきました。その結果、「時の旅人」の詩は現在、過去、未来、現在の順で移り変わっているという結論に達しました。
歌詞の構造の議論の後、内容について授業で扱いました。その際の問いは、歌詞にでてくる「君」は、主人公である「ぼく」とどのような関係にあるか、ということです。この問いに対して生徒からは、「友達」、「いとこ」、「親」など、さまざまな意見が出てきました。この時点で歌詞の分析の1時間目の授業が終了しました。授業後の振り返りには「人によっていろいろな意見があり、おもしろい。」などといったコメントが多くみられました。ただ、授業者としては、生徒の意見の中に、文脈の中での妥当性や論理性に欠けるものが見られたので、反省点として次回の授業への課題としました。
歌詞の分析の2回目の授業は、前回の授業の反省から、他の歌詞にみられる「君」の解釈を導入として入れました。このことを踏まえ、あらためて、「時の旅人」の歌詞を分析すると、生徒は周囲を納得させられるような説得力のある意見が言えるようになりました。この授業の後半では、歌詞と自分の経験を結び付けて考えるということを行いました。具体的には歌詞に出てくる「汗をぬぐってあるいた道野原で見つけた小さな花」の一節を取り上げ、過去に苦労した経験やうれしかった経験はあるか個人で考え、その後グループで意見を共有しました。
この2回の授業を振り返って、生徒からは次のようなコメントがありました。
・私は「君」を友だちだと思ったけれど、 Aさんから「君」は自分だと言う意見が出てよいと思った。
・自分の好きな歌手の歌詞によく「君」が使われているので、その意味を考えてみたいと思った。
・自分たちの歌う曲をここまで分析するのはすごいなと思った。その分もっと気持ちを込めて歌いたい。
・自分の経験を重ね合わせることで歌うときに感情移入しやすくなると思う。
・「時の旅人」に自分のことを当てはめて考えるのはとても難しいと思いました。
・ 「時の旅人」の歌詞がこんなに深い意味を持っているとは思っていませんでした。
・自分について考える授業なので、自分ってなんだろう?と思うことが増えました。
その他、「歌詞の分析は難しい」という意見もありましたが、難しいと思うほど生徒たちは思考をめぐらせ、悩みながらも合唱の課題曲に向き合う様子が見られました。
3.物語の創作(2時間扱い)
単元前半の歌詞の分析後、後半の授業として2時間を使い、生徒たちなりの「時の旅人」物語を創作してもらいました。この授業の目的は、歌詞の構造と意味を深く理解することと、歌詞の内容と自分を引き付けることです。創作文を書かせるにあたって、生徒たちには、作文の補助として「現在」「過去」「未来」「現在」と順番に物語を埋めていくワークシートを配布しました。
また、三森ゆりか氏の提唱する「言語技術」における「物語の構造」を参考にし、創作文中に事件や問題の起点となる「発端」と、事件や問題が解決する「クライマックス」を入れて、作文に物語性を出すように指導しました。そして、授業者が実際に書いた物語を2例紹介しました。授業の進め方としては、1時間目を個人での構想とグループによる練り上げに使い、2時間目を書くこと、見直しに費やしました。
生徒たちは、ワークシートとグループワークによって課題曲と自分を引き付けた物語を構成することができていました。生徒の書くスピードには違いがあるため、時間内に早く書き上げる生徒もいました。早く書き終わった生徒は2人以上で集まって、読み合いをし、付箋でよかった点や改善点を指摘して、作文の練り上げをするように指導しました。
時間内に書き上げることを目指して時間配分するように伝えましたが、多くの生徒から自宅に持ち帰って書き上げたいという申し出があったので認めました。生徒が提出した作文の文章量としては、多く書く生徒でA4サイズの用紙3枚以上、作文を苦手とする生徒でもA4用紙の半分は書いていましたが、全体的には1枚程度の作文が多くみられました。生徒の作文は、分量や内容の質はさまざまでしたが、部活や合唱コンクールの運営など、書き手が抱えている悩みや問題、大切にしていることが盛り込まれていました。

4.評価について
この実践では、次のような点で評価を出すことができます。まず、歌詞の分析においては、ワークシートの点検とグループワークの観察による評価です。歌詞には読み方の正解があるわけではありませんが、自分の意見に対し、根拠を示して論理的に説明するという点では評価が可能になってきます。そして、物語の創作の授業については、構想のワークシートと、出来上がった作品の評価です。歌詞の分析の際に確認した構造や時間の流れを守っているか、物語性を出すためのポイントは入れられているかといった点をみることができます。
5.授業を振り返って
今回の実践は合唱コンクールと授業の両方に効果があったように思います。生徒の授業後のコメントに「歌詞についての理解が深まり歌い方が変わった」、「合唱へのモチベーションが上がった」、など、合唱コンクールへの影響を示すものが多数見られたからです。そして、教科「日本語」の授業においても、扱う題材を生徒たちの関心事である合唱コンクールに設定することで、生徒たちは主体的に学んでくれていました。また、この単元の中で、各クラスの担任や音楽科の教員との対話が生まれたことも、生徒の学びを考える上で、私にとって有益なことでした。
普段は、教科書などがあるため、生徒の学校生活や関心事を中心とした授業を展開するのは難しいのですが、補助資料や言葉かけによって、生徒の主体性を引き出し、深い学びにつなげていけるのではないかと思います。
『国語教室』第108号より転載
このコーナーでは、高校国語の教材を使った活動的な授業実践、指導案の紹介をしています。自分が教えているあの教材を、他の先生はどのように教えているのだろう、いつもと違った手法を取り入れてみたい、という先生方のお役に立つような、活動的で「教室が活発になる」授業の実践が見つかります!
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