ことば・日本語

コトバのひきだし ──ふさわしい日本語の選び方
第16回 「絶賛~中」は自信のアピール? 頑張ってる自分への応援歌?
関根健一

 鳴りやまない拍手喝采、ブラボーの嵐、イイネ! の連打――そんな場面に最もぴったりくるのが「絶賛」でしょう。「絶」は「この上なく・極まる」の意で、「褒める」程度を強調するもの。「絶景」「絶好」「絶佳」といった熟語を作りますが、「絶賛」は比較的新しい言葉です。

 『日本国語大辞典 第二版』(小学館)には「改造社を起こし、雑誌『改造』を大正9年(1920)に発刊した山本(さね)(ひこ)の造語」とあります。山本実彦は大正デモクラシーの思潮に乗って言論界に風雲を巻き起こしたジャーナリストで、安価な文学全集を企画、政界にも進出した人物です。刺激的な新語を考案して、耳目を引こうと考えたのでしょうか。

 以前は「絶讃」と表記しました。当用漢字表にない漢字を含む語で、多く用いられているものの書きかえを示した「同音の漢字による書きかえ」(1956年 国語審議会報告)には、「絶讃→絶賛」も載っています。書きかえが定着し、その後も広く使われてきました。

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 よく見聞きするのは「絶賛~中」の形です。「この上ない称賛を受けて」の意でしょうか。1950年の官報に掲載された「最新官庁機構並職員要覧」の広告に「絶賛発売中」の宣伝文句を見つけました。いまや新刊書などを売り出す際の決まり文句としておなじみです。少々、言い古された感もあるかもしれません。

 ところで、「~中」は「読書中」「授業中」のように、その状態が続いている間を言う表現です。「発売」は商品を売り始める時点を指すので「~中」を付けるのはなじまない、「販売中」と言うべきだという考え方もあります。

 しかし、いよいよ売り出し開始で店に並びましたという告知としては「発売中」は耳目を引きます。既に好評につきお見逃しなく、の意で「絶賛」を加えたら、語呂のよい宣伝文句が完成です。頑張って作った自信作ですから、と自らアピールするニュアンスも含まれているでしょう。

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 最近は、この自己アピールという要素が強く出ている「絶賛~中」のバリエーションが増えているようです。絶賛仕事中、絶賛作業中、絶賛恋愛中、絶賛ダイエット中……別に誰も褒めてないよ、とからかってはいけません。なかなか成果が上がらない、きつくて投げ出したいという気持ちを奮い立たせ、それでも一生懸命取り組んでいるんだと「自分で自分を褒める」、いわば自分への応援歌とでも言えそうです。本来の使い方と少しずらしたところに面白みも感じます。

 ただ、絶賛受け付け中、絶賛募集中、絶賛求人中……となると、アピールしたいのは分かりますが「褒める」理由が見当たりません。「まさにその最中」という程度の意味に過ぎないでしょう。

 では、絶賛遅刻中、絶賛頭痛中、絶賛体調不良中、絶賛金欠中……となると? そもそも褒めるべき対象ですらありません。露悪趣味か? 深刻な状況を自らちゃかして笑ってアピールし、切り抜けようというのか? 何でもありで、重宝に使われている「絶賛~中」という言葉の形式そのものへの皮肉になっている気もします。

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 褒め言葉は使われているうちに、褒める度合いが薄くなったり、意味がずれてきたりします。はやりの言い方は軽すぎるし、ありきたりではつまらないし、強調し過ぎたら皮肉にも聞こえるし――。褒めたい思いをどう伝えたらいいのでしょう?

 まずは、言葉の引き出しの在庫を増やし、整理するところから始めてみませんか。

 2千語以上の褒め言葉を用例付きでまとめた『絶賛語辞典』を出版しました。大修館書店から絶賛発売中!

『国語教室』第124号(2025年10月)より

著者プロフィール

関根健一 (せきね けんいち)

日本新聞協会用語専門委員。元読売新聞東京本社編集委員。大東文化大学非常勤講師。著書に『なぜなに日本語』(三省堂)、『ちびまる子ちゃんの敬語教室』(集英社)、『文章がフツーにうまくなる とっておきのことば術』『品格語辞典』『無礼語辞典』『絶賛語辞典』(大修館書店)など。『明鏡国語辞典 第三版』編集・執筆協力者。

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